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83 朱華ーはねずー

ふわりふわりと、夢心地。 柔らかいけど、少しひんやりとした感触に体が沈んだ。 さっきまで感じていた温もりが離れていく。 それが嫌で、手を伸ばした。 指先に触れた何かを必死で掴む。 行かないで。 それしか考えていなくて、相手が誰なのかとかそんなことはすべて頭の中から抜け落ちていた。 握りしめた手に温もりが重ねられた。 ホッとして腕から力が抜ける。 そのままゆるゆると意識が溶けていく。 すごく気分がいい。 萌志も見れたし、今日はいい日だ。 微睡んだ意識の中、ふといい香りが濃くなる。 さっきまで包まれていたこれ。 あれ、なんだっけ。この匂い。 すごく嗅ぎなれた好きな匂い。 しつこくなくて飽きることもなくて、ずっと顔を埋めていたくなる。 徐々に意識が水面に浮かんでいく。 頬に添えられた温もりを感じ取って、重たい瞼を持ちあげる。 定まらない焦点に瞬きを繰り返す。 次第に鮮明になる視界に映ったのは (あれ……ミヤセン……じゃなくて、これは…) 目が合った萌志が体を強張らせる。 するりと手から温もりが消えた。 あ、と思った時には萌志の顔は見えなくなっていた。 ギシ…とベッドが軋んで、萌志が立ち上がった。 運んでくれたのは萌志? 頬に添えられていたのは萌志の手で、それで…… 幸せだと思ったのは彼が俺に触れたからだ。 (待ってくれ…) かけられた布団を剥いで、重たい上体を無理やり起こす。 遠ざかる背中を追いかけようとベッドから抜け出したけど、ふらついた足ではうまく立てなくて。 ぺたりとそのまま地面に両手をついてしまう。 あ――――。 いやいや。 いまさら何を。 蛍光灯を反射する床の上でこぶしを握る。 さっきまで温かかった体は嘘みたいに冷え切っていた。 ふわりと空気が揺れるのを感じる。 しゃがんだ萌志と目が合った。 久しぶりに見つめる、その焦がれ色。 スッと伏せられた視線を辿る。 俺に伸ばしかけた萌志の手が、躊躇ったように握られた。 触れてほしい。 でも、触れてほしくない。 矛盾する心は、もう俺にだってどうすればいいのか分からない。 あれほど萌志を傷つけといて、今更虫が良すぎる。 そんなことは分かってる。 でも、好きな人が目の前にいてどうしようもなく欲しくなるのは 間違ってることだろうか。 俺は、何もかも諦めなきゃ生きていけないのか。 高校生活も友達も、いらないと思ってここまで来たけど 萌志も手放さないとダメか。 汚したくない。 でも綺麗な萌志を見ていたい。 そんなの烏滸がましい。 でもどうしようもなく焦がれてしまう。 正しい答えってなんだ。 もしそれがあるなら、教えてほしい。 「暁……。」 床を見つめていた萌志が口を開く。 薬品臭い空気に溶けて消えてしまいそうなほど、力ない声。 泳ぐ視線。 どこか投げやりなその表情を見つめる。 「……暁は、さ……俺のことが嫌いかもしれないけど……」 ふと上げられた視線。 その目元がふにゃりと垂れた。 「俺は……」 染まる目元。 目の前に大好きな笑顔。 その目にどこか緊張が滲んでいるのが見て取れた。 それが俺に伝染したのか、ドキドキと心臓が鳴り始める。 その目に惹き付けられて、逸らせなくなった。

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