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92 星鏡ーほしかがみー

「だって、もうずっと好きだったから…。 言っても困らせるだけだって思って…でも……言えなくてつらかった…。 傍にいたいって思っても、好きだからそれ以上望んじゃいそうで。 暁のトラウマの原因聞いて、俺の気持ちは根本から間違ってたんだって。 報われ、るなんて…思っていなかったっ…、から…。」 最後の方は嗚咽でつっかえながら、萌志は言った。 閉じられた目から滴が伝って落ちる。 小さな煌めきを繰り返しながら、消えていく流星。 その様に魅入る。 萌志はいつだって綺麗だ。 その緩いカーブを描いた髪の毛を梳くように頭を撫でる。 「俺も同じだ。 自分を汚いって思ってしまって、萌志の横にいていいのか分からなくなって。 当たり前にお前と話せる奴らが、ずっと…ずっと羨ましかった。 俺だって何もかもが違っていたら、萌志の横に当たり前にいれたかもしれないのに、って。」 言葉を綴れば、止まっていた涙がポタリと落ちる。 おはようも、おやすみも。 今まで何一つままならなかった。 メッセージのやり取りは『会話手段』なだけで『会話』じゃなかった。 無機質な文字にどれだけ思いを込めたって、声には程遠い。 でもそれがやっと終わった。 欲しいって、思ったもの。 同時に手に入れた。 他はもう何もいらない。 そう思えるほど、俺の中は萌志でいっぱいだった。 「そんなこといつから思っていたの…?」 震え声で問いながら、萌志が俺を見る。 いっぱい溜まったその涙に俺もつられる。 視界がぼやける。 今まで、我慢して流さなかった分の涙が一気に押し寄せる。 瞬きする目が痛い。 今度は萌志が俺の涙を拭い始める。 自分だって顔ぐちゃぐちゃのくせに。 少し吹き出せば、また萌志が「笑ったの?暁。」って泣くから、 俺も泣き笑いをしてしまう。 涙に濡れた笑い声が鼓膜を揺らす。 これが俺の声。 しっくりきたその低音。 全部萌志がくれた。 「ありがとう、萌志。」 「……ぇえ?」 「お前がいなかったら、俺、ずっとあのままだったんだ。 ずっと伝えたかった。 ありがとう。」 初めて萌志に会ったあの日。 何故か、その笑顔が頭から消えなくて。 星屑の瞬きが瞼の裏に焼き付いて。 あの日、来てくれたのがお前でよかった。 「……萌志、俺、もうお前がいない日常なんて想像できない。 だから……」 「うん、暁。 俺もだよ。 だから……」 一緒にいよう。 重なった声に、多幸感が溢れだす。 ゆるりと、約束を交わすように絡んだ小指。 確かなその熱に、萌志との思いが通じたことを改めて実感する。 俺の声は、萌志に想いを伝えるためにある。 今までのどす黒い嫉妬や、悪夢。 足元を這いまわった手も。 全部全部消え去って。 すべて声に生まれ変わったんだ。 もう怖くない。 俺の叫びは届いた。 もしこれから、ほかの問題が立ち塞がっても もう1人じゃない。 萌志がいる。 お互いの顔を見て、微笑み合う。 こつんとくっついた額。 目を閉じて、ゆっくり息を吐いた。 萌志、ありがとう。 ずっと一緒にいよう。

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