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93 歓声ーかんせいー

ふわふわ。 宙を浮くようなこの足取りは。 寝不足なのか、安堵感なのか。 はたまた、幸福感ゆえなのか。 荷物を取りに行った萌志といったん別れ、職員室に向かう。 屋上で話をした。 まだ、声を出すことになれなくて 頭の中ではしゃべっているのに、声として発信できなかったりしたけど。 そんなことをしているうちに、体育祭は終わったみたいで。 ざわついた廊下の音を聞きながら、暫くやり過ごす。 このことをミヤセンに言わなきゃ。 高1の時から俺に親身になってくれて。 おせっかいなやつとか思ってた時もあったけど、あのおっさんもきっと俺の恩人だから。 ひょこっと教員室を覗けば、コーヒーを飲みながら「あっつ!」と暴れている奴が目に入る。 体育祭で着ていたであろうジャージをまだ着替えていない。 そんなミヤセンを眺めながら、スマホでメッセージを送る。 『教員室の外、いる。ちょっと来てほしい。』 室内のミヤセンのスマホがポコンポコンと間抜けな音を立てる。 勤務中は通知音切っとけよな。 まぁ、送ったのは俺だけど。 慌てたようにスマホを手に取ったミヤセンは、こそこそとスマホを覗き込んでいる。 めちゃめちゃ怪しい。 メッセージを見たらしく、ミヤセンが振り返る。 視線が合うと、来て来てと手招きした。 訝し気な表情で、ミヤセンが立ち上がる。 なんか、ドキドキして来たな。 なんて言おう。 萌志には初めに何を言うか決めていたけど、こいつには決めていない。 思い付きで来てしまったから、改めてお礼を言うのも照れ臭い。 「……よぉ、お前今日来てたの? ま、いいや。 で。どうした、トラブルか。」 身構えたように俺を見る。 何でトラブルなんだよ。 まぁ、喧嘩ばっかりしてたし。 煙草だって吸ってたけど。 もうそれも完全にやめる。 ふるふると首を動かせば、いくらか表情が和らいだ。 どうしようなんて言おう。 突然、自ら教員室に来た俺とかたぶんミヤセンにとっては不吉でしかないんだろう。 ちらりと顔色を窺うと、へらりと苦笑いをされる。 (変な顔。) なんて失礼なことを考えながら、小さく口を開く。 「……………み……………深山、先生…。」 「……………………………???」 変な笑いを浮かべていた彼の顔が、目ん玉をひん剥いた驚きの表情に変わる。 その顔にしてやったりという気分になった。 「……え。え、え~~~~~?! おまっ、こっ、えええええーーー!」 俺を指さしながら、ミヤセンが後ずさる。 すごいリアクションだ。 こいつこんなにテンション高い奴だったんだな。 驚きのあまり、言葉が出なくなったらしいミヤセンは感慨深そうに俺を見る。 そしてうんうんと頷きながら、俺の肩をポンポン叩いた。 そして、しまったという風に手を引っ込められたから 「大丈夫だ、問題ない。」 というと、「おぉ~」と謎の歓声を上げられた。

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