カラカラと情けない音を立てる車輪を呆然と見つめていると、萌志が噴き出す。 「ごめん…」と呟くと、首を振って自転車を起こしながらまた萌志は笑う。 「無茶振りしてごめんね、歩いて帰ろ。」 その笑顔にほっとして、萌志の横に並ぶ。 横に行きたいと何度も思っていたけれど、実際叶うとなんか気恥ずかしい。 不自然に前髪とかをいじっていると、萌志が前を向いたまま小さく笑う。 恥ずかしくて思わずしてしまいそうになる、舌打ちを飲み込んだ。 「明日、休みだけど、暁はいつも休みの日は何してんの？」 萌志の質問にいつもの自分を思い返してみる。 そして愕然とした。 ……何もしていない。 今まで、声が出なかったから外に出る気にもならなくて。 本とかはネットで頼んで、受付に届いたのを寮監から受け取るだけだった。 これじゃ、話題が盛り上がらないんじゃねーのか。 でも嘘をつくわけにもいかず。 「何も、していない。」 「え、マジ？」 「声が出なかったから、何もする気起きなかったし。」 俺の返答に萌志はうんうんと頷いた。 そして 「明日、俺とどっか行かない？」 ……ドッカイカナイ？ 言葉を反芻して、思わず立ち止まる。 萌志と…出かける……。 固まって足元を見つめた。 「駄目かな」と顔を覗き込んできた萌志。 それを仰け反るように避けながら、赤くなる顔を腕で隠す。 ちらりと萌志を見ると、にっこりされた。 こいつ、慣れてるな…。 なんかスムーズ。 俺は初めてだから、全部に過剰反応してしまうのに。 もやりとしかけた心を落ち着かせるように咳払いをして 「…あぁ。」 と、かろうじて短く答える。 (……うっわ。) 可愛くねえええええ！ もっとマシな答え方なかったのかよ…。 真顔を装いつつも心の中は大荒れ模様だ。 もうすでに時間を巻き戻してやり直したい。 後悔に苛まれている中、ふと思いつく。 「あ、そうだ。萌志…」 「何？」 俺のそっけない態度なんか何でもないように首を傾げられる。 親にも言いたい。 声が出たのはこいつのおかげなんだって。 さすがに付き合ってる、とは言えないが。 恥ずかしいし。 それにいちいち親に言うことでもない。 「………あ、の。出かけるなら、俺の実家に行ってもいいか。」 ただの提案のつもりだったのに。 何故か今度は萌志がフリーズした。