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え、実家?! どうしよう。 ぽかんと暁の顔を見ながら、フワフワと想像が膨らんでいく。 家に行くってことは、暁の親に会うってことでしょ。 挨拶は? なんて言えばいいんだろう。 暁くんって言ったほうが良いかな。 初めまして。暁くんと付き合ってます、御波萌志です。って? 言えるか馬鹿!!!! 初めましてなくせにそんなぶっとんだこと言えない。 駄目駄目。 服装は? 制服とか? 何かお菓子とか持って行ったほうが良いかな。 「……萌志?」 ハッと我に返ると、縋るような目と視線が合う。 「……悪い、無理ならだいじょう、」 「い、行く!!!行こう!暁の家!」 食い気味に返事をすると、暁が目をぱちくりとさせた。 そのあと、ホッとしたように表情を緩ませる。 行きたくないんじゃなくて、こう……あるじゃん? 恋人の家に行くっていう緊張が。 そうか、と溢した彼の横顔を見てまた歩き始めた。 声が出たこと、言うんだろうな。 感動の場に俺がいていいのかな。 家の外で待っていようかな。 もしかしたらそのまま、家でゆっくりするかもしれない。 さすがに水を差すつもりはないから。 もしそうなっても、デートは別の日にしよう。 そう思って思わず顔が緩む。 デート。 暁の恋人になれたって、まだ実感はわかないけど。 髪に触れたり、抱きしめたり。 当たり前に好きっていえる権利をもらえたんだ。 勢いで告ってしまって、もうこの世の終わりみたいな心境に突き落とされたけど。 こんな幸せなことになるなんてな~。 荷物を預かってくれていた烏丸を見て、またちょっと涙が出そうになった。 ぎょっとした彼に、報告をしたら 『……片想い辛すぎて、妄想とか言ってないよな?』 とか失礼なこと言われたけど、幸福すぎて綺麗に聞き流した。 あぁ、暁かわいい…。 またぎゅーってして、すべすべの頬にピンポンしたい。 ポーカーフェイスのつもりなんだろうけど、今となっては彼の考えていることは分かりやすい。 今もそわそわと俺の顔を見ては逸らして、を繰り返して。 見てくれは不良なのに、こんなピュアオーラを出されたらこねくり回したくなってしまう。 今まで彼が傷ついてきた分、俺がうんと甘やかそう。 俺があまりにも凝視したから、「そんなに見んなよ」と睨まれる。 でも。 返事がそっけないのも。 見上げる時に少し眉間にしわが寄るのも。 照れ隠しだって何故かわかってしまう。 伏せた目元に睫毛が影を作る。 もうだいぶ日も落ちて、足は自然と寮の方に向かう。 恋人を家まで送る。 だって俺、彼氏だもん。 暁は女の子じゃないけど、ちょっとした使命感に追われる。 自分が送られていることに自覚ないんだろうな。 寮の門が見えてきた時点でやっと、暁は「ん?」という表情を見せた。 「萌志、もしかして俺のこと…送り届けて……」 「うん。」 ゴーンと音のしそうなほどの顔をして、暁は立ち止まる。 「…萌志、戻ろう。俺がお前を送る。」 キリッと俺を見るけど、うん。かわいい。 でもいいのに。 俺がしたかっただけだし。 「今日は俺に送らせてね。」 「ね?」と微笑むと、暁は門をちらりと見た後、渋々といったふうに頷く。 拗ねたように少し口をとがらせている彼。 それを見てクスリと笑って、また自転車を押す。 ついてしまった門の前。 自転車を一度停めた。 覗くと施設まで少しレンガの道がある。 離れるのは名残惜しいけど、明日に備えなきゃ。 でもちょっとだけ。 「暁。」 俺が呼ぶと、暁が顔を上げる。 灯されたオレンジ色に照らされて、その瞳がきらりとする。 今日から俺の恋人。 ちょいちょいと手をこまねくと、暁は1歩俺に近づいた。 その右手をするりと握って、顔にかかった髪を耳にかけてやる。 「……おやすみ、暁。また明日ね。」 「……え?」 ぽかんとした彼のこめかみに唇を寄せる。 シャンプーの匂いが鼻先を掠めて、その細い髪を梳いた。 微かに聞こえたリップ音。 それを合図に掴んでいた手を放す。 これくらい許される、よな。 自転車のスタンドを蹴って、跨った。 額を抑えたまま固まった暁に、「早く入りなよ。」と声をかけて 俺はご機嫌で帰路についたのだった。

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