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地元の駅に着いた時には、すでに疲労困憊だった。 本番はこれからだというのに。 げっそりしている俺に「大丈夫?なんか飲み物買ってこようか?」と、原因である萌志が焦った声をかける。 大丈夫だ、と首を振りながら目線を上げる。 懐かしい駅舎は驚くほど何も変わっていなくて、どこか安心している自分がいる。 「向こうとあんまり変わらないね!」 初めての土地に萌志はきょろきょろと辺りを見回している。 「駅から実家までどれくらいなの?」 「徒歩で…15分とか20分とか……30分とか…40分とか…?」 「どんどん増えてるけど?!しかも疑問形じゃん!?」 大丈夫なの?と苦笑する萌志。 悪いが……正直全然大丈夫じゃない。 家までの道は分かる。 でもきっと近づくにつれて歩みが鈍くなるのは目に見えているのだ。 萌志が場所を知らないのをいいことに遠回りとかしそう。 しそう、というか、絶対する。 俺なんでこんなにビビってんの? ダサすぎ。 さっさと言って、報告して帰ればいいじゃん。 何がそんなに… 「不安なの?」 俺の心を読んだかのように萌志が首を傾げる。 「……なんで…?」 「いやー、暁ってもう考えてること表情にダダ漏れというか… もはや顔面が電光掲示板みたいな…?」 顔面が…電光掲示板……。 頬をむにっと持ち上げる。 そんなに顔に出ているのか…。 片想いしてる時は気づいてくれなかったくせに。 なんて、今になってからそう思うんだけど。 「とにかく!大丈夫!」 「あのな、何を根拠に……。」 「何度も言うけど、俺が一緒にいるじゃん!」 ふにゃふにゃ笑って、「ね、いこーよ。」と萌志は促す。 俺だってこんな、子供みたいにうじうじしたくない。 萌志がいなかったらそもそもここまで来ていないかもしれない。 ついてきてもらって、やっぱビビったんで帰りますなんて女々しいことは言うつもりないけど。 行くったら行く。 決めただろ。 もう母親を泣かせないって。 安心させなきゃ。 俺はもう大丈夫って。 「ん…行く。」 「よし!レッツゴー!」 「の前に、ちょっとトイレ。」 「ええええ暁く————ん?!」 拳を上げたまま萌志は拍子抜けした顔をしたけど、トイレぐらい許せ。 くるりと踵を返して、そそくさと駅舎のトイレに向かった。 * 「次、どっち?」 「………そこの角を、左。」 「……ねぇ、暁。」 「……何。」 「遠回りとか、してないよね?」 ぎくりと見上げると、にっこりと黒い微笑みを向けられる。 実はちょっとだけしている。 本当に、ちょっとだけ。 「あ———!その顔!やっぱりしてるんだ!してるんだ!!」 「う、うるせーな!!ちょっとだけだ!」 フンっと萌志から顔を背けて、小さくため息をつく。 遠回りをしたものの、角を曲がって5分もしないうちに実家は見えるはずだ。 何が、怖いのだろうか。 親の反応? いや、違うな…。 反応なんてどんなものでも構わない。 きっと、昔と違っているであろう両親を見るのが怖いんだ。 俺は俺のことで精いっぱいで、心配の声にも耳を貸さず避け続けた。 空白の数年間。 見紛うほど年を取っていたらどうしよう。 後悔したってもう遅い。 失った時間はもう戻らないんだ。

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