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99 母親ーははおやー

目の前のインターホンを凝視する。 ついてしまった。 (ついてしまった……!) 何度確認してもこれは俺の家だ。 表札には『鳥羽』。 うん。 俺の家だな。 出ていったあの日と何も変わっていなくて。 時なんて1秒も過ぎてないんじゃないかと思ってしまう。 でも隣に萌志がいる時点でそんなわけがない。 何故かそわそわとしている萌志。 俺の緊張が伝染ってしまったんだろうか。 そうだとしたら申し訳ない。 「押さないの?い、インターホン…。」 「あ、あぁ……。」 「「………」」 じっとり汗ばんだ手をインターホンに伸ばすけど、そこで止まってしまう。 穴が開きそうなほどそのボタンを睨みつける。 「暁。」 「…んだよ。」 「顔、顔怖すぎ。取り立て屋みたいだからやめな。」 「じゃあ、萌志が押して。」 「なんで?!」 えー!と言いながら、場所を変わってくれる辺り優しすぎる。 ふぅ、と深呼吸をした萌志は、次の瞬間、にっこりと完璧な笑顔を浮かべる。 THE優等生、みたいな。 その笑顔のまま、横の俺を見た。 「これ、貸しね。後で1つ言うこと聞いてもらうから。」 「…………え?」 ピ————ンポ————ン 俺の返事を聞く前に、萌志がボタンを押した。 うっそ。 えらい素直だと思ったらこういうことか!!! 何をやらされるんだろうか。 変顔とか。 無理無理。 唖然として萌志を見つめていると、 『————はい。』 懐かしい声が聞こえた。 咄嗟にしゃがんで、塀の死角に隠れてしまう。 何やってんだ俺。 そんな俺をちらりと見た萌志はそのまま続ける。 「あの僕、現高校の御波萌志と申します。 暁くんと同じクラスで…」 僕?! さっきまで俺って言ってたじゃねーか! 『御波くん……? …あ!御波くん?! ちょ、ちょっと待っていてくださいね! 今行きます!』 慌ただしく切られたインターホンに、萌志と顔を見合わせる。 何だろう。 俺はしゃがんだまま身を顰める。 全身が脈打ってるみたいだ。 乾いた唇を舐めて、耳をそばだてる。 解錠の音が聞こえた。 「あ、初めまして。御波です。」 現れたであろう俺の母親に萌志が挨拶をする。 近寄ってくる人の気配。 柵越しにふわりと優しい匂いが鼻を掠めた。 「暁の母です。 こんな遠いとこまでわざわざ…… えっ、もしかしてあの子に何かあったんですか?」 母親の不安げな声が頭上に降ってくる。 何かあったというか、ありまくったというか…。 萌志が膝で俺をつつく。 「いや、あの……もう!立ちなよ暁!!!」 「え?」 痺れを切らしたような萌志の声に俺はよろよろと立ち上がる。 隔てていた塀が消えて、母親を見た。 見開かれた瞳。 固まった表情には少ししわが増えていた。 震える声が、俺を呼んだ。 「……あか、つき…?」

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