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102 駆引ーかけひきー

暁のお母さんに車に乗せられ、大きめのモールに連れてきてもらった。 「ご飯と買い物終わったら、ちゃんと連絡するのよ!いいわね?」と暁にくぎを刺して、軽自動車は去って行った。 その後ろ姿を見送って、暁に向き直る。 「俺、ちゃんとお金持ってきてるから。 もらったお金は暁が使いなね。」 不安げに建物を見上げていた暁が曖昧に頷く。 おなかはすいているけど、地元を怖がっている暁はこういった場所にまだ来たくないのかもしれない。 そこまで必死に空腹を満たしたいわけじゃないし、さっさと買い物を終わらせてしまおう。 寝巻を買って、下着を買って。 はい、おしまい。 デートはもっと暁の気が休まるところじゃないとできそうもない。 お泊りっていうのはすごく楽しみだけど。 触りたいのは山々。 でも、やっぱり気持ち悪いって思われたくないし、暁がいいよって言うまで俺は待つんだ。 暁はそういうことに関しては、あまりいい気分じゃないだろうから。 もしかしたら、プラトニックラブ的なそういうことになるのかも。 別に、いいんだけどね。 うん。 頑張れ、俺。 * ファストファッションの店で、無難な寝間着と下着を選ぶ。 会計にビビった暁の代わりに俺がレジに持っていく。 甘やかすのと優しくするのとじゃ全然違うんだけど、まあ仕方ない。 俺は暁の恋人であって、お兄ちゃんじゃないんだけど。 インターホン前で半ば無理やり取り付けた、「後で1つ言うことを聞いてもらう」っていうやつ。 あれ絶対暁忘れてんだろうな。 内心トホホとなりつつ、お姉さんから商品を受け取った。 お店から出て、ベンチに座って待っていた暁に近づく。 俺を見るとホッとした表情を浮かべ、立ち上がる。 その顔を見たら、自分が必要とされていることを改めて実感できた。 額にキスは、暁的に大丈夫だとわかったけど。 唇とかその他の恋人の特権的な場所は? GOサインが出たら、遠慮なくいただく準備はできているんだけどなぁ。 ま、寝チューというか口移しはしたけどね。 暁本人は知らないけど。 俺が会計を済ませているうちに、お母さんに連絡を入れたらしく、彼女が来るまで30分ほどの余裕ができた。 1階に降りて、バーガーショップに入る。 ゆっくりがっつり食べれる時間はないから、おなかに溜まりそうなスムージーをLサイズで頼んだ。 暁にも同じものをSサイズで注文する。 彼の家でも思ったけど、暁は甘党らしい。 前に「煙草、苦くないの?」って聞いたら、「俺が吸ってる銘柄は、比較的甘い」って言ってたしな。 俺はあっという間にスムージーを飲み干してしまって、仕方なしに頬杖をついて暁を眺める。 Sサイズのくせにまだ飲み終わっていない。 ストローに吸い付く薄い唇を見ていたら、不意に容器をこちらに向けられる。 「もうちょっとしか残ってないぞ。」 どうやら勘違いをさせてしまったらしい。 全くそういうつもりで見ていなかったから、不意を衝かれてぽかんとする。 物欲しそうにしたのは、スムージーじゃないんだけどな。 というか、間接的にどうとかそういうの、気づいてるのかな。 「いいの?」 大丈夫なの?という問いかけのつもりだけど、暁はそんなこと微塵も考えていないんだろうなぁ。 いいよと頷く彼を見て、苦笑する。 俺の反応を見て不思議そうに首を傾げる彼に少しだけ意地悪をしたくなった。 「じゃあ、遠慮なく。」 暁の手ごと容器を握る。 少し濡れたストローを口に含んで、吸い上げる。 指先で彼の手の甲を撫でてみる。 広がったイチゴ味が少し虚しかった。 こんな風に煽っても、きっと何の効果もないんだろ。 ちらりと暁を見ると、何か言いたげに俺を見つめていた。 (ん……?これは何の顔だろ……。) 最後まで飲み干して、パッと手を放す。 すると、暁は 「ぜ……」 「ぜ?」 「…………全部飲んだな……!」 ほーらね。 彼は期待を裏切らない。 まぁ、そういうところも好きだけど。 片想いに気づく前は、ハグしたいだのなんだの何も考えずに言えていたのに。 今じゃかなりの臆病者だ。 きっとお泊りを意識してるのも俺だけ。 もう一杯買いに行くと立ち上がる彼を、お腹冷えるよと嗜めて。 何とも言えない気持ちを抱えて、モールを出た。

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