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104 罔象ーみずはー

俺の挑発に萌志はムッと口をとがらせる。 何がそんなに不満なのか。 俺は恋愛に疎いし、ましてや俺たちは同性で。 何もかも手探り状態なら、手っ取り早く相手に聞けばいい。 萌志は俺が初めてじゃないだろうから、どうすればいいか分かるんじゃないのか。 そう思って少し寂しくなるけど、言っても仕方ないことだ。 萌志はため息交じりに口を開く。 「……じゃあ、俺の考えていることを聞いてほしい。 …………俺は、暁に怖がられたくないんだよ。」 「お前のこと、別に怖くねーよ。」 「拒否されるかもしれないっていう怖さ、分かんない?」 「やってみなきゃわからん。」 「……そーだけど。」 俺の手を握ったまま、萌志は視線を落とす。 口籠ったまま、シーツを眺めている。 握る手に力を入れてみれば、ちらりと視線を上げられるけど。 またすぐに逸らされた。 なんだよ。 手を繋いだまま座る位置をずらして、萌志と目線が合うようにベッドに横になる。 むくれた顔のまま、萌志は俺を見る。 「近いよ、暁。」 「近づいてんだよ。」 「付き合う前はあんなにビビってたくせに。」 そうだよ。 今だってそこそこの勇気を振り絞ってやってんだよ。 でももう、萌志は俺のだから。 ほかの奴らに対する引け目がなくなっただけ。 「なんで怒ってんの。」 「別に怒ってないよ。」 「でも、むくれてんじゃねーか。」 「どっかの無自覚バカのせいだよ。」 「それ俺のことか?」 ベッドに顎を乗せた萌志が俺を見る。 握った俺の手を今度は両手で掴む。 指一本一本を弄んで、するりと絡ませるように繋がれた。 黙ってその様子を見ている俺に 「……嫌じゃない?」 「……うん。嫌じゃねーよ。」 囁くような問いにゆっくり答える。 今度は恐る恐るといった様子でその繋いだ手を萌志が引き寄せる。 萌志に比べれば、小さくて細い俺の手。 その甲に萌志が唇を寄せる。 『え。』と思った時には、ふにっとした感触が落ちる。 伏せられた睫毛と、触れている唇を凝視した。 萌志が何をしているのか、ゆっくり理解してじわじわ熱が顔に集まる。 こめかみに口づけられた時よりも、それはゆっくりで。 萌志の唇の柔らかさとか熱とか、表情とかも全部わかってしまう。 唇を離すと同時に萌志は俺を見た。 「…嫌、じゃない?」 どこか熱がこもった声と瞳に、どきりと心臓が強張る。 嫌じゃない。 嫌じゃないけど。 「……恥ずかしい。」 汗ばんだ繋いでないほうの手で、顔を拭う。 絡んだ指を意識すれば、ぶわわと熱が上がる。 萌志は俺の様子にホッとしたように表情を緩めて、 「暁。」 「……何。」 「こんな一つ一つの行動に対する、暁の反応が俺は怖いんだよ。 嫌じゃない?っていちいち確認しないと前に進めない。 事情を知った後じゃなおさらなんだよ。」 「……なんで? 俺の気持ち、信じてねーの。」 そういうと、慌てたように首を振られる。 ぎゅっと力が手に込められて 「信じてるよ。 同じ気持ちだって思ってる。 でも暁を傷つけた奴と俺は……同じ『男』なんだよ。 それホントに分かってんの。」 何を言ってるんだろう。 言ってしまった、と顔を歪めて視線を外す萌志をただぽかんと見つめる。 「……同じじゃ、ねーよ。」 「同じだよ。」 「同じじゃねぇ。」 「分かってないんだよ、暁は。」 イラっとした俺は繋いでいた手を振りほどく。 「違うって言ってんだろ!」 そのまま身体を起こして、萌志を見る。 熱が離れた掌に少し後悔が滲んだけど、そのまま言葉を続ける。 イライラするのは悲しいからだ。 萌志は分かってない。

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