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強く回された萌志の腕によって、腰が浮きあがった。 腹から下が密着して、ぎょっとする。 「え。き、萌志…ちょ、」 慌ててその胸に手をついて、押し返すけどびくともしない。 (あ…) 顔に影がかかった。 熱を孕んだその双眸と視線が絡んで、腹の奥が疼いた気がした。 「ふ…んっ、んぅ…!」 急くように重ねられた唇から、火がついたように顔が熱くなった。 シーツをかくように足を滑らせる。 時折漏れる萌志の吐息と、俺が布を引っ掻く音。 それが耳に届くたびに、ぞわぞわした感覚が足元から這い上がった。 「……っばかばか待、て、ぁ、んん!」 抗議の声も虚しくかき消される。 酸欠でぼんやりしつつも、少し萌志の口が離れた瞬間に必死で呼吸をする。 押し返そうとした腕も抱き込まれて、自由を奪われた。 自分がしたような、ただ隙を突いたようなものとは違う。 食むように何度も重ねられて、下唇を吸われる。 濡れた音が部屋に響いて、身体の熱が上がって。 ジン…とした痺れが脳の中心を溶かしていく。 彼のスウェットを握った手から、力が抜けていった。 首筋をなぞって回された手がゆるゆると後頭部を撫でる。 (い、きが……。) 再び酸素を貪ろうと必死で開いた口に、ぬるりと熱い何かが差し込まれた。 それが萌志の舌先だと気づいたのは、唇の裏を舐めあげて歯列をなぞられた後。 「……ん、ぁ…っ」 思わず体を強張らせて、暴れるように身を捩れば萌志がパッと身を起こした。 糸を引いた唾液が顎先に落ちる。 解放された身体をぐったりシーツに委ねた。 呆然と天井を見つめながら、大きく口を開いて肩で息をする。 生理的に滲んだ涙で、瞬きをすると目元が少し冷たい。 額に浮かんだ汗や狂ったように動く心臓を、壁時計の秒針が沈めていく。 「あ……ごめん、俺……。」 叱られた犬みたいにしょんぼりとした萌志は俺から少し離れて、布団の端に正座をした。 ゆっくり上体を起こして、まだ整っていない呼吸を繰り返す。 キス、した。 萌志と。 萌志が俺に。 俺が、煽ったから。 ドッドッと脈打つ身体は火照っていて。 萌志ので濡れた唇がさっきの感触を呼び起こす。 ふわふわした。 顔を背ければ済むことなのに、やられるがまま。 頭を撫でられながらされて、力が抜けて。 舌を突っ込まれるまでは、瞬きするのも億劫になってきて。 眠る前みたいな。 微睡みに襲われるような感覚。 (あ、これ……気持ちいいってことか…。)

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