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113 瑠璃ーるりー

どんよりとした顔の萌志を見て、思わず笑ってしまう。 なんで俺に拒否される前提なんだろう。 「萌志……」 「わー!!!ごめん!ごめんなさい!!」 声をかけただけで、萌志は手をバタバタさせて謝ってくる。 たぶん俺がびっくりして暴れたから、それを嫌がったと捉えてしまったんだろう。 嫌だったら唇に噛みついていただろうし、もしかしたら鳩尾に膝をめり込ませているかもしれない。 萌志にそんなことするわけもないし。 というか、嫌悪感なんて欠片もなかったのに。 「落ち着けって。俺怒ってねーし。」 怒ってないけど、待つってこいつ言ったよな。 案外早かったな。 というか早すぎるな。 限界が来るの。 「待つって言ったのにな。」 「……うん。」 「俺が大丈夫って言うまで待つって言ったのにな。」 「……はい…。」 敬語になって縮こまる萌志。 垂れ下がった耳と尻尾が見えた気がした。 それが面白くて、わざと追い打ちをかけてみる。 「そんなに俺としたかった?」 「……はい。」 「俺、普通のキスもしたことなかったのに。」 「……はい。」 「初めてだったのに。」 「……。」 急に黙り込んでしまった萌志をちらりと見ると、何やら考え込むような表情をしていた。 首を傾げながら、口を開きかけては閉じている。 何だろう。 俺なんかおかしいこと言った? いや?言ってないけど。 「何?」 「いや……。」 「なんだよ。言えよ。」 歯切れの悪い萌志に身を乗り出すと、制すように掌を向けながら萌志が仰け反る。 「……じゃない、です。」 「ん?なんて?」 「初めてじゃ、ないんです。」 「え?」 「あの、だから……。」 おろおろと視線を彷徨わせていた萌志がちらりと俺を見る。 そして言った。 「キス?って言ったらちょっと違うかもしれないけど、でも、俺、したことあります…。」 「は。」 「暁に、寝チューをしてしまったことがあります……。」 ごめんなさい、と三つ指をついて萌志が頭を下げる。 というか。 初めてじゃない? ん?ねちゅー? ねちゅーって何。 「ねちゅー…?」 「うん、寝チュー。」 「……って何。」 「え?! …あ、寝ている間にする、ちゅーのこと、です。」 ほー。 なるほど。 寝ている間にするキス。 え。 「それは…いつだ。」 「夏……暁が熱中症で倒れた時に…水を飲ませようとして、うまくいかなくて… あ———寝チュー、というよりは……口移し、です、かね?」 いや、俺に振るな。 ですかね?って言われても そうなんですね?としか返しようがない。 でもまぁ…全然覚えてないんだけど。 「……したかった?俺と。」 もう一度聞きながら、情けなく眉毛を下げた萌志に近づいてみる。 赤くなった顔を隠そうと顔を背けた彼は、拗ねたように呟く。 「……したかった。ずっと。」 そして、好きな人には触れていたいよ、と続けた。

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