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115 贈物ーおくりものー
幸せな週末が明けて、月曜日。
「……。」
「……。」
がやがやと騒がしい食堂。
無遠慮な周りの視線。
そして何故か向かいに座って俺を見つめている烏丸。
萌志が昼飯を一緒に食おうと言ったからついてきてみれば、まさかの食堂で。
生徒で溢れるそこに立ち竦みそうになるのを必死で堪えたのが、15分前。
たかが生徒に何をビビってるんだ。
赤の他人にビビって、萌志との昼飯を逃すわけにはいかない。
そして。
萌志が「お~い」と手を振った先にいたのが、渡貫と烏丸。
何でこいつがいるんだろう。
萌志といえば、渡貫と食券を買いに行ってしまった。
混んでるから、俺たちのも買ってきてくれるって。
何がいいかと聞かれたけど、何があるかもわからず
すべて萌志に任せる。
烏丸も何でもいい〜と言って、そのまま俺の前に座った。
でもなんで、よりによってこいつと2人きりなんだろう。
マスクで隠れた口元のせいで、何を考えているのか分からないのは相変わらず。
そういえば、体育祭で倒れた俺のところに萌志を連れてきたのはこいつだよな。
何なんだろう。
萌志に近づくなと言ったり、ああいうことをしたり。
読めない。
じっと視線をそらさない相手に俺も意地になる。
くそ。
黒マスクの怪しい奴と一緒にいたら、目立つじゃねーか。
そこへ、トレーを持った二人が戻ってくる……のを気配で感じた。
だって目線を俺から逸らすわけにはいかない。
「も~、女子たちが言ってたから急いで帰ってきてみれば……。
なんで本当にメンチ切ってんの…。」
「え、そーなの?」
「渡貫聞いてなかったの?
『やばい、窓際の四人席で2年の黒マスクとヤンキーがメンチ切ってた!』
『まじ?!やば~い!』
…って言ってたじゃん。」
「あ、萌志。今の女子の真似、面白かったからもっかいやって。」
「そこじゃないでしょ、渡貫。」
「「……。」」
…どこから突っ込めばいいのやら。
烏丸も同じことを思ったようで、若干瞬きの回数が増えている。
内心ツッコミ入れたくてたまんねーんだろ。
じゃあ、さっさと目を逸らせ。
「はいはい、もうやめなって!
……ねぇ、聞いてる??」
俺の横に座りながら、萌志が肩をゆすってくる。
その向かいに渡貫が座った。
すると、烏丸の頬を渡貫がつつき始める。
俺を見たまま、やめろと手を払いのけようとしている烏丸。
その時、萌志が俺に耳打ちをした。
「ね、暁、俺見てよ。」
意図せず、声に導かれて烏丸から視線を外してしまった。
目が合った萌志がにっこりと笑う。
やられた。
悔しくて眉間にしわを寄せていると、ため息が耳に入る。
「あーあ。勝ったけど、負けた気分だわ。」
フンと拗ねたように鼻を鳴らした烏丸は、渡貫の指を掴んで曲げていた。
本来曲がる方向とは反対に。
「待って?!バスケ部の指!大事!ねぇ!」
彼の訴えにあっさり手を離した烏丸は、マスクを外す。
その口元は彼の悪人面をあっという間に可愛らしくしてしまった。
綺麗に弧を描いて跳ね上がった口角と、その傍にあるホクロ。
口元がコンプレックスなのだと、萌志から聞いていた。
あんまり凝視するわけにもいかないから、視線を外す。
そこで、萌志が
「はい、暁。
カレーと日替わり定食、どっちがいい?」
湯気の漂うその二つを俺の前に並べる。
どちらも美味しそうで、でも萌志が注文したせいか知らないけど妙に量が多い。
「……萌志が好きなほう選んでくれ。」
「あ、そう?じゃー俺は日替わりいただきまーす。」
俺の前にカレーが置かれる。
すごいな。
学食ってこんなのなのか。
人が多いわけだ。
コンビニで買うよりずっとこっちのほうが良い。
「烏丸烏丸!お前も選んで!ラーメンか、かつ丼!」
「ラーメン。」
「じゃ、かつ丼な!」
「は、何のために聞いてきたわけ?
てか、かつ丼食べるにしてもスプーンないんですけど。」
見れば、トレーに乗っているのは箸一膳のみ。
烏丸の言葉に渡貫はにやにやと怪しい笑顔を浮かべている。
萌志は隣で笑いをかみ殺しているし、俺は何が何やら分からない。
すると徐に渡貫が、上着の内ポケットを探り始める。
ぎょっとした烏丸が仰け反った。
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