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放課後。
教室に迎えに来てくれた萌志。
いつもよりゆっくりとした歩みで学校を出る。
「いつも放課後1人の時は何をしていたの?」
萌志が自転車を押しながら隣で問うてくる。
「ネコ……。」
「ネコ?」
「公園で…ネコがいたから……そいつと。」
あぁ、と萌志が相槌を打つ。
そうか、で終わるよな、こんな話。
特に何か面白いことをしていたわけでもないし。
声が出てからというもの、今度は一人で出かけることが怖い。
まともに喋れる気がしない。
「その公園行く?」
「え?」
「いや、俺は暁が落ち着けるところがいいなって。」
俺ネコ好きだし。と萌志は笑ってくれる。
その顔にホワッと和むけどすぐに不安になる
いいのか。
楽しくないかもしれない。
ネコも、いないかも。
そう思って、萌志を見上げる。
「ネコ、いねーかもしれない。」
「まぁ、それはそれで仕方ないよ。」
そしてポンポンと自転車のサドルを叩く。
首を傾げると、萌志はニヤッと笑った。
「2ケツ、リベンジ!!!」
*
腹に回された萌志の腕に心休まらず、必死にペダルを踏みこむ。
まともに乗る自転車なんて、いつぶりだろう。
2人乗りも初めてだ。
初めて付き合うのも、キスをしたのも、寄り道も、連絡先交換も。
全部全部、萌志。
萌志がいい。
熱くなった頬を風が優しくなでる。
「いい感じ!」と嬉しそうな声が後ろから聞こえた。
自然と口角が上がる。
ふふっと笑い声が漏れた。
「え?今笑った?」
「笑ってない。」
「笑ったでしょ?!ねぇ、見せて!見―せーて!」
萌志が後ろで身を捩っているのを感じた。
どう頑張ったって見えないのに。
それが面白くて、また笑ってしまう。
意地悪だ!という萌志の拗ねた声が心地いい。
「意地悪じゃねーもん。」
「もん、って言った!もう一回!」
「言わねーよ。」
萌志もはしゃいでんのかな。
いつもよりテンションが高い気がする。
トン、と背中に重みがかかる。
「っ?何?」
「あ———……いい匂い…。」
「っはぁ?!ばか、嗅ぐな!」
回された腕に力が込もって、背中に顔を埋められる。
心拍数が一気に上がって、思わず後ろを振り返りそうになる。
「はいはい、運転手さん。ちゃんと前見ようね~。」
「誰のせいだと思って…!」
「俺だねぇ。」
くすくすと笑う萌志は、慌てる俺を面白がっている。
片手でハンドルを切って、空いたほうで萌志の腕をはがしにかかった。
でもそれをすればするほど、力が強くなる。
やだやだと駄々をこねて、ぐりぐり頭を擦りつけられた。
何これ。
あっつい。
というか、誰かに見られたらどうするんだろう。
「嫌?」
「っえ?」
「ううん、何でもない。」
突然大人しくなった(以前バックハグ状態の)萌志の呟きが、後方へ流れていく。
何でもないと誤魔化されて、俺も聞こえなかったふりをする。
嫌じゃない、といちいち言葉にしないと萌志は不安なんだろうか。
こういうじゃれつきも、俺は心地いい。
嫌がってるんじゃなくて、照れ臭いだけなんだけどな。
顔が見えていないから、分かんないのかもしれない。
萌志の服を掴んでいた手を放して、ハンドルに戻す。
2人分の重みで軋む自転車を転がして、目的の場所へ向かった。
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