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突如現れた弟に、身体が硬直する。
いつから?
どこまで見られた?
ドッドッと全身が脈打つ。
心臓が痛い。
手に嫌な汗がにじんだ。
俺が同性に恋愛感情を抱いていることを知った時から、帆志はさらに反抗的になった。
というか、同性愛に嫌悪感を抱くようになった。
テレビで取り扱われようものなら、悪態をつきながらチャンネルを急いで切り替える。
俺も、テレビでそういう単語を聞くとヒヤリとしてしまう。
事情を知っている妹弟に気まずさを感じるし、いたたまれなかった。
何も悪いことをしていないのに、変に注目されて取り上げられているから
公開処刑をされている気分になるのだ。
「何してんの?」
底冷えしそうなほどの声が耳に届いた。
よりによって帆志に見られるなんて。
暁が俺の傍から離れた。
残り香が鼻を掠めた。
「その人、前言ってた人?」
「……うん。」
「付き合ってんの?」
「……う、ん。」
砂利の音がして、帆志が此方へ近づく気配を感じた。
次第に音が近づくのが怖かった。
弟相手になんでこんな緊張をしなくてはいけないんだろう。
周りを気にしない。
ただ暁のことだけを見ていたいって。
それはエゴだったんだろうか。
同じように親に見られても、これが俺たちだからって胸を張って言える自信は?
あるって本気で言える?
好きだけじゃ済まない。
同性と付き合うことが、簡単じゃないってことを自覚しつつある。
俺たちとすれ違う瞬間、氷のような視線が射るように向けられる。
「目、早く醒ましたほうが良いんじゃない?」
吐き捨てるようなその言葉が、脳内を反響した。
目を醒ますって。
この幸せは幻覚なのかな。
遠ざかる足音を呆然と聞いていた。
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