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さすがにトイレはやめようということになって、場所は屋上になった。 扉を開けた途端、冷たい風が吹き込んでウッと肩をすくめる。 これだと誰も来ないだろう。 安心して、話せそうな気がした。 「んじゃ、聞きましょうか。」 風の直接当たらない塔屋の影に避難した烏丸は、どっこらしょと腰を下ろす。 俺もその正面にあぐらをかいて座った。 俺を見つめるその目を直視できず、地面を見る。 すると、 「鳥羽ってさぁ、俺の目見ないよね。」 「……だってお前、凄い見てくるし…。」 「綺麗な顔してるから、思わず目の保養に。」 ぼそっと言われたセリフに「ん?」となったが、本題に入れと無理やり促される。 どこから話したものか。 ごちゃごちゃの頭を何とか整理する。 黙りこくって視線を泳がせる俺に、烏丸は盛大に溜息をついた。 「俺、お前らのお世話係じゃねぇんだけどなぁ。 ま、こっちにもそれなりに影響が出てくるし。 簡単な質問していくから、答えられるとこは答えて。」 何から何まで、こいつに頼りっぱなし。 そこまで、話したことないのに。 頼んだのは自分だけど申し訳なってくる。 シュンとしそうになるところを何とか奮い立たせて、頷いた。 「んー…じゃあ、昨日?何があったん?」 「……キス、したら、無理してするぐらいならしないほうが良いって…。 あとは、萌志の弟に見られて、『早く目を醒ませ』って言われた。」 「……あちゃー。思ったより重かったわぁ。」 烏丸は、なるほどと呟いて思案顔を浮かべる。 「無理して、っていうのは、あんたの潔癖が原因?」 「いや…萌志に対してそういうのはない…。」 「じゃ、なんで?」 「……。」 人に触れられるのが怖い。 それは、トラウマのせい。 でもこれを話すべきなんだろうか。 ……いや、聞いてもらってるんだから。 烏丸は言いふらしたりしないだろう。 何もかも赤裸々に言う必要はない。 簡潔に言えばいい。 「人に触られるのが苦手なのは、過去に男に襲われたからだ。」 「は?」 「そのせいで…」 「ちょ、ちょっと待って。」 「え?」 烏丸は、ハイと挙手をした。 口を噤むと、眉を顰めながら首を傾げた。 「男に襲われたのに、なんで男の萌志と付き合ってんの?」 「それは……萌志がいなかったら俺は失声症とトラウマを抱えたままで…。 過去を知っても、萌志は俺を選んでくれた。 だから…」 「はい、ストップ。失声症って何?」 「その襲われたことへのショックで、今まで声が出なかったんだよ。」 「……。」 マスクで隠れているその口はあんぐり開いているのだろう。 目を瞬かせた烏丸は、なるほどと頷いた。 「なんか…それは……大変だったな。 こんな簡単に言っていいもんじゃないんだろうけど。 だからお前、あんなに誰とも関わってなかったんだな。」 「いや、萌志のおかげでしゃべれるようになったから良い。 もう、前の俺じゃない。」 「うん。そうだよな。 …で?何で、無理して~…って言われたの?」 本題に引き戻される。 あの時の萌志の顔を思い出すと、胸が痛くて後悔がその傷をぐりぐりと押されているように感じる。

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