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萌志から視線を外した。
萌志はよく俺のことをいじって遊ぶ。
俺が恥ずかしくて躊躇しているのを知っていながら、声色とその笑顔を使って言わせてしまう。
心底萌志に弱いなと思った。
不意に手を握っていた温もりが片方だけ消えて、代わりに頬に触れられる。
「っ、なに。」
「こっち見てほしいなって、思って。」
にこりと笑う萌志。
お願いモードの顔。
本人は素なのかもしれないけど、萌志の言葉には拘束力があると思う。
いい意味で。
でもやっぱりこの笑顔が一番好き。
萌志の手から自分のを抜いて、そのまま彼の両頬を挟む。
そして摘まんでみた。
むにっとした感触、そして面白い顔になる萌志。
「いひゃい…」
「ふっ…」
「あぁ~わあった!えあおであんえもううあえ」
「何言ってんのか分かんねーし。」
俺が声をあげて笑うと、不満げな顔をしていた萌志もニマ~っとした。
それがなおさら面白くて、下を向いて肩を震わせる。
顔を上げるとわざと変な顔を見せたりして、笑うのをやめさせてくれない。
堪り兼ねた俺は、萌志の頬から手を放して咳払いをして余韻をかみ殺す。
萌志は満足げに溜息をついて
「笑った顔、やっぱりかわいいね。」
「…え?」
「笑ったらね、暁、眉毛が下がってね、ふにゃ~ってしてかわいいよ。」
萌志は両手の人差し指を八の字に見立てて、眉毛のとこまで持っていく。
そして、「かわいいね」と小首を傾げた。
その行動が可愛い。
でも萌志の笑顔の方がかわいい。
……って言ってもいいんだろうか。
「萌志も……萌志のも、いいと思う。」
「俺の?笑った顔?」
うんうんと頷くと、そうかなと首をひねる。
そうだよ。
屋上でお前と出会った時も、笑顔だけが脳裏にこびりついて離れなくて。
そこからずっと虜なのに。
「萌志が笑ったら…」
「俺が笑ったら?」
「笑ったらさ、目じりが垂れて。
左目の瞼、二重んとこ。
隠れてるホクロがちょっと見えて、すごい、好き。」
「ひいぇえ、照れる……。」
自分は褒めたくせに、褒められると照れる。
そういうところも好き。
珍しく顔を赤らめて、意味もなく鼻を啜って拭うところも。
笑った顔が一番良い。
萌志が笑ってくれるなら、俺は。
「萌志。」
「ん?」
「笑って。」
指先で目にかかった彼のくせ毛をそっと払う。
目を瞬いた萌志は、すぐゆるりと優しい顔をする。
綺麗に弧を描いた口元をなぞって、つぶやくように告げる。
「萌志。」
「うん。」
「好きだよ。」
「知ってるよ。」
「……話を聞いてくれてありがとう。」
今度は俺が聞く番。
萌志が考えていること。
2人のスピードで、どうやって歩いていこうとか。
そういう話を、したい。
俺が甘えるだけじゃなくて。
萌志を不安にさせないように。
話をしよう。
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