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135 藹々ーあいあいー

萌志の横に移動して、そっと身を寄せてみる。 こう、ピッタリ寄り添うのは、萌志と一緒に寝た日以来な気がする。 柔らかい匂いが鼻を掠めて、酷く安心した。 暫く考えるような顔をしていた萌志は口を開く。 「……帆志にはさ、もうずっと前から知られていたんだ。 今と変わらず、反対されたし。正直、ぎくしゃくしたのもある。 でもさ、弟に反対されたからって『はいじゃあ、やめます』なんてことになるわけがないし 帆志は大事な家族だけど、あいつに俺の恋愛をどうこう言うような権利はない。 受け入れてもらおうなんて思ってない。 ただ、『そう』なんだって理解してほしいだけ。」 「うん……。」 「別に応援もされなくていい。 テレビで見たけど、同性で付き合うことに何で周りの人があんなに干渉してくるのか、俺には全然分かんない。 純粋な気持ちで、みんながするような普通の恋愛をしているだけなのに。 それを、頑張れって何だろう。 俺たちは他人に応援されないとできないことをやってるんじゃない。」 「……。」 段々やるせない気分になってくる。 俺たちの恋愛の形が、どういうものなのか。 世間はどうとらえているのか。 気になって調べたことがある。 俺は、女の人を好きになったことはないし。 だからと言って、男に目を向けていたわけじゃない。 ストレートか、ゲイなのか。 そんなの自分にだってわからない。 誰の目にも干渉されない、ただ穏やかな時間を萌志と過ごしたい。 それだけなのに。 ゲイと知られていじめられたとか、自殺したとか。 『普通』なんて誰が決めたんだろう。 自分のあたりまえが、他人のあたりまえだなんて。 どうしてそう思えていたのだろう。 子供が産めないからダメなのか? 結婚するのになぜ、国の許可を取らなくちゃいけない? お前らに認められなきゃいけないその理由は? 複雑な道に足を踏み入れたことは分かっている。 一緒にいれたら幸せだと、当人たちは思っていても 周りがそうさせてくれない。 『普通』から逸脱することが、怖いなら。 目を瞑って無視をしてくれ。 変に攻撃してきたり、むやみやたらに敵視したり。 萌志の弟だったとしても、目を醒ませだの言われる筋合いはない。 でも俺と付き合ったことで、萌志の家族の形が変わってしまうのは嫌だと思った。 「……萌志。」 「ん?」 「弟と、萌志の仲が悪くなるのは……俺は嫌だ。 受け入れられなくてもいいから、そういう形があることを知ってほしい。 萌志の弟だって、耐性がなかっただけで本当に萌志のことを否定したいわけじゃないだろ。」 「だといいんだけど…。 あいつ末っ子だけど、責任感強いし、強情で。 言いたいことはずけずけ言うし、口は悪いし、分かりやすいし。 でも大事な弟なんだよ……だからやっぱり、拒否されて冷たい目で見られるのは… そこそこキツいかも……。」 あはは、と力なく笑う萌志。 俺は兄弟がいないし、そういう絆とかは分かんないけど。 そういう顔は見たくない。 「あと、怒んないで聞いてほしいんだけど……。」 「あ?」 「うわ、もう怒ってる……。」 「気にするな、言え。」 保険をかけるような言い回しをされると、身構えてしまう。 俺が不快に思うかもしれないことを敢えて言うのなら、腹括ってから発言しろよ。 萌志は窺うような視線を向けてきたが、しっかり見つめ返す。 口籠っていた萌志は、覚悟を決めたように息を吐く。 「目を醒ませって言われたとき、お前に関係ないじゃんって思った反面。 これは俺のエゴなんじゃないかって、思って……しまって…。」 「ほう。」 「俺じゃない、例えば…女の子が暁に寄り添ってたら、暁はその子を好きになって。 男同士だからってこれから、そういう干渉もされなくて……。 独りよがりや、自己満足で……暁を縛ったり…自分を決めつけたり…… してるんじゃないかって… いや、ごめん。ホント女々しい。」 「おい、それは」 「まって。続きがあって…… 昨日の夜、あれから悶々と考えてみたけれど。 やっぱりあの日暁を見つけたのは俺だし、俺じゃないと嫌だし。 エゴでも何でも、暁が俺の隣じゃないのは考えられなくて。 だから、それでも、暁がほかの誰かと一緒になるのは嫌だって…… 思って……。」

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