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第3話

「……あの、すみません。その、道が、分からなくて」 困ったように笑うその月のような青年は、闇夜に融けだしそうな青い瞳を綻ばせながらそう言った。連れてこられたはいいものの、はぐれてしまい道が分からないのだと。けれど、それよりも。  ーーわずかな既視感に首を傾げた。 「――――――こんなところに来る方が………すごいと、思うけど」 眼を瞠るほど綺麗な容貌に、癖のある金糸。思わず見つめながら答えると、青年はきょとんと目を瞬かせ、口を開く。 「俺、春祭りには初めて参加したから、勝手がわからなくて……」 「君、ふもとの子じゃないの?」 通りでこんな場所にいる筈だと納得しながら、半分しか開いていなかった扉を全部開き、階段の上から彼を見下ろした。月明かりにも負けないほどのその金糸は、紛れもない人間だけれど、人と言うにはあまりにもきれいすぎて。 「―――――あなたは、ここに住んでいるの?」 キョロキョロと辺りを見回しながら彼は僕を見上げた。その瞳がどこか縋るようにみえて、一瞬だけ息が詰まる。 「………あ、うん。そうだよ。僕の家はここ」 「ずっと、ここに?」 「そう」 「なら、知りませんか?俺の、妹の事」 縋るような瞳に、僅かばかり不安そうな声音を抱えて、彼は真っ直ぐに僕の瞳を見返した。真っ青な瞳が揺れ、僕はハッと息を吐く。 「……どうして、そんな事を聞くの?」 自分が気づくよりも先に、僕は彼にそう聞いていた。そんな必死に、こんな真夜中、自分の心配より先に家族を心配できるような人間が、まだ存在していたのかと。  彼は、妹が見つかるようにと祈りたくて山に来たのだと僕に告げた。困ったように眉根を下げながら、それでも、必死に。とりあえず僕は山を下りるには抵抗があったから社に招き入れて、少しばかり濡れた体を拭くようにと綺麗な布を渡した。  和秋と名乗った彼は、数年前から行方不明の妹を探しているらしい。両親はもうあきらめているけれど、とかなしそうに語った。それでも、この人間には負の感情が、あの、よどんだ空気が全くない。ただ綺麗で、清浄だ。 本来の正常な空気間にホッとしつつ、僕は目深くかぶっていた布を取り払い、傍にあった燭台に火を灯した。  ぼうっと明かりがともり、橙が暗がりに融け始めた頃、和秋が小さく声を漏らした。 「あ、あの……っ!」 「? なに?」 「……なんて、呼べば」 なまえも分からないので。とそう言う和秋に、僕は「群青」だと答え、僕の見目については深く考えない方がいいと先に制しておいた。僕は人ではないし、なにより人の感覚はよくわからない上に、ちょっとの怪我だってすぐ治る。見た目だけで言えば僕は明らかに「怪しい」人物だ。 「―――僕をじっと見ないでくれるかな」 「いえ、ただ、綺麗な赤い目だなって」 「赤い目って珍しい………でしょ」 「そう………ですか、ね?俺がこんな色なので、あまりそうは思わないけど……」 「ふぅん。君は変わってるね」  その纏っている空気ごと、普通ではないけれど「普通」の人間だ。和秋の纏う空気は僕が嫌いなそれではないし、別に明日の朝、眞洋が来てから一緒に降りてしまえばいいんじゃないのかとも思う。眞洋は朝昼晩とやってくるし、それに、世話焼きだから案内くらいしてくれるだろう。 僕は深く考えることをやめて、和秋に「もう寝たら」とそう言った。 「明日、案内するから。今日はもう寝よう」
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