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第8話

「ーーー…僕たちと関わりを持つのは、自ら死ぬのと変わらないよ」 あまりにも静かに、群青さんの言葉が響いた。 それは、妹を諦めろと言うことなのだろうか。そんな事、出来ない。 「俺は、」 「……人の子」 俺の言葉を遮るように、牡丹さんが言葉を零した。咎めるでもなく、責めるでもないその声音は、俺を止めるには充分だった。空気に融けるように澄んだその声音に、牡丹さんに顔を向ける。 「――――お前が、妹の安否を知るにはその「神足喜三郎」がどこにいるのかを探さないといけない。鬼と関わるのは、私もあまりすすめられないが、お前は言葉で止めようが気持ちは変わらないのだろう?」 「……はい」 変わらない。それは絶対に。妹が見つかるまで諦めるつもりなんてそもそもなかったし、ここで止められても、なら自力でどうにかしようと思っていた。多分、だけど、そうなる事すら群青さんにはわかっていて、だからこそ牡丹さんを呼んだんだろう。 俺を確実に止められると踏んで。でも、 「見つかるまで、探します」 「っ、和秋」 「それで、お前は命を落としても構わないのかな」  酷く静かに、ワントーン落ちた牡丹さんの声音が鼓膜を揺らした。腕を組んで、呆れた様に言葉を放った牡丹さんはため息を吐くと、人の子は、と言葉を零す。 「いつの時代でも命を簡単に投げるのが好きなようだ」 諦めにもにたその言葉が妙に優しく聞こえて目を瞠ると、牡丹さんはそのまま立ち上がり、群青さんを見下ろした。 「群青。止めても無駄なようだから、もう教えてあげなさい」 私は帰るよ。と言い残し牡丹さんが社を出ていく。その背中を、俺も群青さんもただ見送った。  社内に満ちた重い空気が体にまとわりついているような気がして、短く息を吐くと、群青さんの方がピクリと動き、うなだれていた顔が俺を見つめる。 赤い瞳が諦めの色を宿して僅かに揺れた。 「――――――和秋」 「……はい」 「神足喜三郎は、………………山にいると思う。ここより少し、離れた山奥にある山荘に暮らしてるはずだよ。恐らく和秋の妹と一緒に」 「え」 群青さんは顔を逸らし、またため息を吐いた。その長い長い溜息の後、立ち上がると、俺に手を差し出した。 え?と首を傾げると無理やり手を掴まれて引き寄せられる。バランスを崩しながら立ち上がると、ぼすっと頭に何かをかぶせられ「わっ」と声をあげた。 「ソレ、かぶってないと襲われちゃうから」 「へ?」 「―――行くんでしょ?山荘」 呆れた様な、怒ったような声音に頭にかぶせられた布をずり下ろしながら群青さんを見ると、思ったような表情をしていて息が詰まる感覚がした。多分、すごく迷惑なはずで、でも、俺が諦めないから。  群青さんが諦めたんだと。 そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。 「僕も、行くから」 「――――――――――――――へ?」 思わず漏れた素っ頓狂な声に「あのね」と群青さんの苦い声音が飛ぶ。 「和秋一人で行かせられる場所じゃないんだよ。僕が居ればある程度は大丈夫だから」 「そ、え……、あ、ありがとう、ございます」 「でも、無理だと思ったら僕は容赦なく君を連れて帰るから。その時は抵抗しないでおとなしくしたがって」 「あ、う……はい」 「うん。ならいいよ」

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