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第9話

小さく、ためらいを乗せた息が吐かれた。 眞洋さんからは、群青さんは特にこの祭りの期間、外に出ることはないと聞いていたから、この行動は本当に、俺が、させている。 そう思うと、少しだけ。 だけど、止める気なんて毛頭ない自分から言ってもきっと怒られてしまうからと、謝罪の言葉を口にしそうになって、飲み込んだ。 きっと、今ここで口にした謝罪の言葉に、意味なんてないから。 社から出るとまだ陽は高く、その所為か山道を登ってくる人がまばらではあるけれど結構いる。群青さんは頭にかぶった布で視界を覆いながら、迷うことなくけもの道から山を降りていく。 「………あの」 「なに。立ち止まらないで歩いてくれる。とりあえず、眞洋のところまで行くから」 「あ、はい」 分かりました。と返事をして、目の前を歩いていく群青さんを見失わないようについて歩いた。改めて歩くと、登りより降りる方が険しく感じてしまうこの山道を、見えてるのかいないのか、視界を布で隠している群青さんは相当すごいんじゃないだろうか。なんて、そんなどうでもいい事を考えながら歩いた。  しばらく歩き、大きな参道に出ると、不意に立ち止まった群青さんが何かを思案しながら振り返り、俺をジッと見つめた。 「っ、」 「和秋って、軽そうだよね」 「は?……え?」 群青さんは俺よりも幾分か高い背丈で、見下ろしてくる。赤い瞳に真っすぐ見つめられて、思わず言葉に詰まった。 そんな俺を無視しながら軽そうと言葉を放った群青さんは、俺が少し浅めにかぶっていた布を思いっきり引っ張ると、少し黙ってて。と小声でつぶやく。急に真っ暗になった視界に、次いで僅かな浮遊感。 「え、っな」 「しー。和秋。黙って」 これ、肩に担がれてないか?と疑問を口にするよりも先にゾワリとするような浮遊感に声をあげた。そんな俺に、いつもの調子で群青さんが静かにと言葉をかける。 「これ、」 「暴れたら落ちて死ぬから。空、飛んでるだけ。だから気にしないで。怖いなら寝てれば」 「いや、そ、……っ」 空ってどういう事。この言い表せない微妙に気持ち悪さを伴う浮遊感はそういう事ですか。なんて到底聞ける筈もなく、二回三回と繰り返された浮遊感に、地面におろされた時にはヘロヘロで思わず座り込んでしまった。 「――――だい、じょうぶ?」 「あ、はは。はい。大丈夫です。あはは、こんな感覚、初めてで」 片手で布を取り払いながら、群青さんを見上げた。 「―――おかしな子だね。和秋は」 俺の言葉に、困ったように群青さんの赤い瞳が綻んで、手を差し出される。それを掴んで立ち上がりあたりを確認すると、そこは見覚えのある、眞洋さんの住んでいるマンションの前だった。 群青さんと出会ったあの日、送ってくれた眞洋さんがずぶずぶに汚れていた俺にお風呂と服を貸してくれたのは記憶に新しい。 「………行こうか」 そのまま繋がれた手を握り返して頷いた。

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