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第14話

「ねぇ、和秋」 不意に、群青さんの手が頬に触れた。暗がりの中、もう、月明かりしかない中で、群青さんだけがはっきり見える。場所もよくわからないけれど、今自分が立っている場所が、どこかの山の高台で、人が滅多に来ないであろう場所だという事だけは分かった。 「ーーーーーーーーーー傷、もう平気?」  不意に聞かれた質問に、首を傾げた。怪我なんてしていない。それなのに、群青さんは嫌に不安そうに言葉を並べた。触れる指先が僅かに震えていて、逆光で表情がよく見えなくなってしまう。空では、月が雲に隠れる寸前だった。 「――――群青、さ」 「これ、」 俺が言葉を言うより先に、群青さんの言葉がそれを遮った。頬に触れていない方の手が、胸に押し付けられる。一度その手に目を向け、すぐに群青さんを見上げるけれど、やっぱりまだ、僅かな不安が感じ取れた。 「和秋が、持ってて」 「え」 押し付けられたそれは、小さな小さな指輪だった。歪な形をしていて、所々色が違って見える。けれどそれには、見覚えがあった。 「――――――環」 「そうだよ」 「これ、割れたんじゃ、」 なかったのか、と口にしそうになって、ハッとした。だって、知るはずがない。俺が、そんなこと。手のひらに転がる指輪を見つめて、ふっと息を吐いた。 「…………………………和秋」 群青さんの声が降ってきて、その顔を見上げる。 「―――――割れてないよ。それは、僕の命そのものだ。僕が生きてる間は、君を守ってくれる」 苦しそうに歪んだ赤を、俺は多分、知っている。それは、恐らく群青さんが俺にあったことがあるのと関係があって、でも、俺はそれを覚えていない。 でも、俺が覚えていないのは、「神隠し」にあったと言われたあの数日間だけ。 ーー本当に……? 「―――…群青さん、俺、」 「いいよ、和秋。君が覚えてないのは、当然だから」 頬に触れた指先が、俺の言葉を制するように唇に触れた。 「無理に考えなくていいんだ。僕と君は、きっと会わない方がよかったはずだから」 「………でもっ」 「僕も、あの夜に会わなければきっと忘れたままだったよ」 綻んだ赤が、夜の闇に融けていってしまいそうで、不安に駆られる。思わず群青さんに抱き着いて、ぎゅうっと背中の服を掴んだ。そうじゃないと、消えていってしまいそうで。目の前から、いなくなってしまいそうで。 「――――その指輪、落とさないでね。和秋」 「……なら、」 「?」 「それなら、群青さんは、いなくならないでください」 その言葉に、返事はなかった。ただ、頭を優しく撫でられただけで。それだけで、分かってしまった。きっと、 群青さんはこの件が終わったら、俺の中からいなくなってしまうんだって。

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