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第7話 ※
性欲、それは誰にでも存在し得る。三大欲求の一つというほどなのだから、人間ならほとんどが当てはまるはずだ。
それは郁人も例外ではない。
「う、……はぁ、んっ」
暗い自室のベッドの上で壁にもたれかかる。下半身には何も身につけておらず、その中心に剃り立つものを両手で包み込む。手加減しながら握れば、唇から熱い吐息が漏れた。
「は、ぁ……っ」
決して立派ではないが、質量の増して膨らんだ自身はより激しい刺激を求め脈打っている。掌を一定のリズムで上下させると甘い痺れが伝わってきて、身体の内側がじわりと熱を持ってきた。カリをしつこく弄り回し、溢れでる欲へ溺れていく。
先端から溢れでるカウパーを全体に馴染ませるように扱き、裏筋を撫で上げる。ぬちゅぬちゅと卑猥な音が響き、それに煽られ口端からくぐもった声が漏れでた。
「んん……、」
上下に扱き続けると身体に火がついて、イイところに掠め思わずビクッと跳ねる。先端を指を潰すよう集中的にぐりぐりと押しこめば自然と腰が動き、呼吸も荒くなっていく。目を閉じ、快感を逃すまいと手の動きを速める。先走りが竿を辿り、下へと流れ落ちて止まらない。郁人はそれが流れた方――己の後孔へ片手を伸ばし、先走りの滑りを使って入り口付近を撫で回す。過去の慰め時に何度か弄ったそこから僅かな快感を拾うのは難しくない。中に手を入れるのは怖くてできないが、郁人にはそれで十分だった。
片手は自身を扱き続け、もう片方は秘部を指で弄る。次々に襲い来る快楽に何も考えられなくなっていた。ひたすら気持ち良さを追い求め、手淫をさらに激しくしながら更に追い込んでいく。響く音が更に大きくなった。
「っ、んっ、ああっ、ゆずる、ゆずるっ」
無意識に零れた想い人の名。その瞬間、目の前がチカチカと白くなり自身が大きく波打った。絶頂に達した後、手に吐き出された欲をぼんやり見つめる。イッた後の独特な倦怠感を感じる中、頭が一気に覚めてきて大きな罪悪感が心を支配した。
「…………っ」
友人である橘を所謂オカズにして抜いてしまった。
今日会うことができなかったぶん、橘が恋しくなりつい下半身に手が伸びた。
これが初めてではない。というか、毎回同じことを繰り返しているのが現実だ。
アイツは友達だ、普通の友達だ。そう思っても橘に対し劣情を寄せてしまうのが惚れた者の宿命なのかもしれない。
郁人の自身に橘が触れてゆるゆると扱き、弱い部分を指でなぞる姿。瞼の裏に浮かべながら手淫を施すだけで興奮した。
橘にソレを間近で見つめられ、そのまま口に取り込まれて舌で舐め回される。竿を辿るように這う赤がまた扇情的で煽られるには十分だ。喉奥まで咥えられ唇で上下に激しく扱かれる。汁がとめど無く溢れ、同時にアナルも攻められて自分はイッた。想像するだけでなんとも言えないほどの快楽を掻き立てられ、快感が身体全体を走り抜ける。
白状してしまえば、それは最高に気持ちが良かった。しかし全てが終われば、その快感以上の罪悪感に苛まれる。ゲイでもバイでもない橘に想像とはいえどフェラをさせて達してしまったのだ。
友人でいたいという理性と友人じゃいられないという本能が葛藤を繰り返す。いつもいつも自分を慰めながら無自覚に橘を求めてしまうほど、自分は橘に侵食されているということ。
短く悪態をつくと、己の手に吐き出された欲をティッシュで乱暴に拭った。それをベッド横のゴミ箱へ投げ入れたとき、ベッド横に置いてあったスマホが振動した。すぐに止まったのでメッセージだろう。誰からだろうと思いながら端末を手に取り開くと、何かの因果だろうか、橘からだった。それを開くことで更に追い打ちがかかることになる。
【今からお前ん家行くから】
一瞬背筋がひやっとした。あと少し早ければどんな事態になっていたのやら。橘の家は郁人と最寄り駅は違うが行こうと思えばすぐ来れる距離だ。もう家を出た後だとしたら、ちょっと危なかった。既に夜の十時を回っているが、こういうことはお互いによくやる。しかし今回はタイミングがタイミングだ。
郁人は深く息を吐くと、真っ裸な下半身ではいられないので衣類を身につける。ゴミ箱の中身をキッチン側のゴミ箱へ移したあと、念には念を入れて消臭スプレーをベッドを中心にぶちまける。部屋は若干散らかっているがいつものことだから橘は気にしない。それでもなんとなくそわそわして、目に留まったものは片付けた。
これで大丈夫かと息をついたとき、玄関のチャイムが鳴る。
「はーい。」
ドアを開ければ予想通り、Tシャツにスウェットというラフな格好の橘が立っていた。
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