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Jalousie 3

 仕事を終え、買い物を済ませて関町のマンションへと向かう。  チャイムを鳴らすと直ぐに関町が玄関のドアを開いた。 「おかえりなさい」  まるで飼い主を待つ犬だなと彼を見れば、何処か不機嫌な表情だ。  朝は調子が良さそうだったのに、もしや寝ていなかったのか。  額に触れようと手を伸ばしかけた所を関町にその手を掴まれてしまう。  触られる事を嫌がった事は一度もない。寧ろ、触ってほしいと寄せてくるのに。 「なんだ」 「あの男は誰ですか?」  何のことだと目を瞬かせる。  そのまま腕を引かれ、ソファーに座らされた。  テーブルの上に置かれていたスマートフォンを操作し、こちらへと画面を向けた。  そこに写っていたのは長谷とのビズ。店の誰かがこれを関町へと送ったようだ。 「誰だよ、送ったの」  嫉妬丸出しの男に、ややこしい事になったぞと額に手を当てる。 「これ、なんなんです」  画像をピンチインし、触れ合う場所がアップになる。 「挨拶だ」 「挨拶ですって!?」  日本では馴染みのない挨拶だ。黙らせる意味も込めて関町に実行する。 「りゅう……」  驚いて目をまん丸くしている関町に、龍之介はふ、と口元を緩めた。 「フランスでは親しい者と挨拶をする時にこうするんだ」  くだらない嫉妬をするなと、彼の頭を軽く叩いて立ち上がる。 「長谷さんはお世話になった人だ。お前が思っているような人じゃない」 「龍之介さんっ」  手が伸び、後頭部を押さえつけられた。  逃げられない。そう思った時には唇を奪われていた。 「んっ」  舌が入り込み歯列を撫で絡みつく。 「せき、まち」  手を胸の間に差し入れて押すがびくともしない。  するりと手が首を撫で、背中へと降りていく。 「ん、ふ、だめ、だ」  これ以上は。  腰を支えるように腕を回し、しつこく唇を吸われ、そして離れた。 「はぁ」  意識がとろりとしかけたが、我に返り彼の肩を強く押した。 「関町」 「ごめんなさい、龍之介さん。それでも、俺は、嫌なんです」  泣きそうな目を向け、まるで濡れた唇を拭うように手の甲を押し当てられた。  まただ。胸が締め付けられるように苦しい。 「飯、作るから。お前は座っとけ」  その手から逃れるように一歩下がり、そしてキッチンへと向かう。 「りゅ、……はい」  そっと振り向けば大人しくソファーに座る関町の姿がある。  つまらない嫉妬をして面倒な奴、そう思っていた筈なのに。 「くそ、俺の心の中にずかずかと入り込みやがって」  ただの挨拶。だが、惚れた相手だから気になるし、嫉妬もしてしまうといったところか。 「だいたい、あんなキス、この頃はお前としかしてねぇよ」  気がつけば指が唇に触れていた。  手の甲を押し当てるなんて、そんなしおらしい態度は関町らしくない。 「て、らしくなくていいんだよな」  ぐいぐいとこられても困ってしまう。それなのに、物足りなさを感じてしまい、そんな自分を否定するように頭を振るった。  鍋焼きうどんが出来上がりお盆に乗せて関町の元へと向かう。 「あ……」 「それを食ったら薬を飲んで寝ろよ」  帰り支度をする龍之介に、何か言いたげな顔をするが、 「はい。ありがとうございます」  とだけ言い、玄関まで見送りに来る。 「じゃぁ、な」 「はい。おやすみなさい」  呆気なくドアは開き、そしてぱたりと音を立て閉じた。  引き止められなくてよかった。いつもならそう安堵していた所なのに。  今日に限ってはそれが心に引っ掛かった。

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