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Rivale 2
その日の午後に訪れた客は目を奪われるくらいに色気のある大人の男だった。
そう、実物は写真よりも男前だ。
「いらっしゃいませ。長谷様でいらっしゃいますか?」
「はい」
「龍之介から話を伺っております」
「あぁ、貴女が清美さんですね。キュートな方だ」
「ありがとうございます」
仕事中だ。しかも向こうは客なのだ。私事で彼に話しかける事は出来ない。
「レセプションの招待状を手作りしようと思ってね」
「サンプルを何点かご用意いたしますので、こちらにお掛けになってお待ちください」
「失礼いたします。お待ちの間にお飲み物は如何でしょうか」
お客様対応中の従業員にかわり、手の空いている者が待っている客にお茶を出す。
「あぁ、じゃぁ、ホットコーヒーを」
「かしこまりました」
奥にある給湯スペースで珈琲を入れる。トレイに珈琲と焼き菓子をのせて持っていく。
「ありがとう。Le・シュクルの焼菓子かな」
「はい、そうです」
「美味しいよね」
長谷は龍之介がフランスにいる頃から彼の作る菓子を食べているのだ。それが自慢げに聞こえてしまうのは、ただの嫉妬。だけど悔しくて拳を握りしめそうになる。
「それでは失礼します」
今は自分の感情は後回し。そう言い聞かせて頭を下げて離れようとするが、
「ねぇ君、俺の事をずっと見ていたよね」
と言われてぎくりとした。
ばれていたかと、ここは気を取り直し、
「失礼しました。清美さんとお知り合いなのかと」
そう言葉を返した。
「あぁ、彼女ではなくて弟さんの方とね」
「龍之介さんと、ですか」
「そう。フランスでね」
ふ、と唇を綻ばせる。押さえていた感情がどろりとあふれ出る。
それでも耐えなければいけない。ここでお客様である長谷とトラブルを起こすことはできない。
「もしかして、龍之介に惚れてるの?」
「……え?」
我慢できずに表情に出てしまったか、自分の頬へと触れると、長谷が吹きだした。
「素直な子だね」
くつくつと腹を抱えながら笑う長谷に、羞恥で顔が熱くなる。してやられた。
「はじめは男として嫉妬されているのかと思っていたんだけれど、フランスと口にした時、目が鋭かったよ」
この魅力的な見た目だけでも羨望してやまないのだから、嫉妬されるというのは頷ける。
関町は別の事で嫉妬していたが、今は客と従業員。表情には出さないようにと笑顔を貼りつけていた筈だが、簡単にそれを剥がされてしまった。
「失礼いたしました」
「良いよ、あ、清美さんが戻ってきた。この話は後でね」
と財布から名刺を取り出して関町のポケットへと入れた。
「連絡頂戴。一緒に飲もう」
色気のある笑みを浮かべて腕を軽く叩かれる。
「はい」
頭を下げて給湯室へと戻りポケットの中から名刺を取り出す。
ビストロ・オルキデ。
シンプルな白地に金色で花のロゴが描かれている。
花というイメージが無いので意外だと思ってしまった。
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