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Monopoliser 2
「あ、これは店で出す予定にしているヴァン・ルージュでね。龍之介にあげる約束をしていたんだ」
落ち込んでいたのに気が付いたのだろうか。フォローするようにそう言ってくれる。
「そうなんですね。龍之介さん、嬉しそうだったからすごいワインなのかなって」
「関町君、あまり詳しくないんでしょ?」
「はい」
「今度、二人きりで教えてあげるよ」
と手を掴んで撫でられた。
優しい人だ。恋敵だというのに、つい甘えたくなる。
「何しているんです?」
料理を手に、呆れた顔をして龍之介がこちらを見ている。未だ繋いだままの手を慌てて離した。
「そういえば、さっきの、アレって何?」
一瞬、何の話だと顔を見合わせ、玄関で話していたアレだと長谷がいう。
「あぁ、ビズの事ですよ」
龍之介が軽く睨む。
「だからか。可愛いねぇ、関町君って」
「え?」
聞き間違いかと思い目を瞬かせる。だが、長谷は、
「俺ね、甘やかして面倒を見てあげたいんだ」
とたたみかける。
「何を言っているんですか、長谷さん」
何故、自分なのか。まだ出会ったばかりだというのに。
「龍之介はさ、すぐに俺を必要としなくなっちゃったから」
「俺は……」
龍之介がその言葉に表情を曇らせる。やはり長谷に惹かれていたんだ。
胸が痛み出す。
「関町君、俺はとことん甘やかしてあげるよ」
「でも、俺は龍之介さんが」
「じゃぁ、龍之介は関町君をどう想っているの?」
龍之介の肩が震え、ゆっくりとこちらへと向き目が合うが、直ぐにそらされてしまった。
「別に。鬱陶しいだけ」
それはいつもと同じ。
どんなにつれなくされようとも、関町はあきらめるつもりはない。
「だって。見込みがないようだからあきらめなよ」
どうして長谷に言われなければならないのか。それに対して胸が騒ぎだす。
黙っていてと長谷を睨み、龍之介の本心を教えて欲しいという思いを込めて口にする。
「本当に、見込みはないんですか?」
関町が見ていても龍之介は目を合わせてくれないし、こたてもくれな。それが返事と言いたいのだろう。
「……そうですか」
どんなに気持ちを伝えても、心は届かなかったという事か。
「すみません、俺、帰ります」
気が滅入る。今は龍之介の傍にいる事が辛くてたまらない。
「関町っ」
龍之介が呼ぶ声が聞こえたが、足は止まることなく、部屋から逃げるように出て行った。
失恋とはこんなに辛く悲しいものだったんだ。
今まで味わった事のない喪失感。このまま消えてしまいたいくらいだ。
強く握りしめた拳は爪がくいこんでじくじくとするが、心の痛みに比べたら大した事は無かった。
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