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第二章 五

「はい。じゃあいきます。あめが目隠しされるところから。そこから合図出すまで続けて。いい感じだったら切らずに続けて撮るから」  監督の声で、志岐は家の寝室に見立てたセットの中央に立つ。その後ろに桜田とアキトの二人が立った。  合図とともに、撮影が始まる。 「ねえ、どういうこと? その人誰?」  志岐は振り返って桜田とアキトを見る。相変わらず、演技は上手くない。視線をきょろきょろさせて不安感を出そうとしているのはわかるのだが。  もし志岐が演技の方に本格的に進みたいとか言い出したら勉強させないとと、椿は考える。 「こいつは俺の友達」  桜田は楽しそうに笑い、隣に立つアキトを志岐に紹介する。 「その人と何をするって言うの?」  後退る志岐を、桜田は抱いて引き寄せる。志岐の身体が強張っている。それを宥めるように、そっと背中を撫でた。 「キモチイイこと、しよ」  桜田が志岐を抱きしめたまま耳元で囁く。  ぞくりとした。  桜田は、演技が上手い。普段はヘラヘラしていて色気は感じさせないのに、撮影が始まると、途端にノーマルな男さえも虜にしてしまえるような色気を纏う。  それは志岐も同じらしく、かっと頬が赤くなったのがわかった。  桜田に引っ張られるように、志岐の持つ犯し難かった無垢な雰囲気が崩れる。危うく、乱してしまいたいと思わせるような、男を誘うそれに変わる。 「キモチイイこと?」  期待。 「でもそれは何?」  不安。 「いつもよりもっと気持ちよくさせるものだよ」  桜田は微笑んで、期待と不安が入り混じった志岐の瞳を覆った。  ◇  この一ヶ月、何度も志岐の撮影を見た。  いつも、思う。  あの、いつも隣にいる志岐が変わる瞬間。撮影を見ている距離は近いのに、志岐がずっと遠くに行ってしまったと。 「あぁ……っ」  目隠しをされた志岐は、さらに後ろ手に手錠をされ、全裸ですべてをさらけ出して、ベッドに仰向けに転がされている。  桜田は、わざと音を立てながら志岐のものをしゃぶっていた。 「すごいな。この子。十分感じてんじゃん」  桜田の友人という設定のアキトは、そんな二人をベッドに腰掛けて見下ろしている。 「もっとさ。もっとぐちゃぐちゃにしたい」  桜田の方が狂気じみたものを感じさせる。  いつもの、甘いセックスをする桜田とはイメージが違っているが、志岐に触れる動作は壊れ物に触れるように丁寧で、それを見て、椿はいつもと変わりない志岐に優しい桜田だと安心した。 「上も下も咥えるのが上手なんだよ」  桜田の声に、志岐がわずかに震えたのがわかった。  ……今のは、演技か? 「それなら俺もやってもらおうかな」  アキトはそう言って、ベルトを緩め、前を寛げた。緩く勃ち上がったアキトのものが、晒される。それを志岐の顔の前に持ってくる。 「できるよね?」  桜田の声に、志岐はまたぴくりと身体を震わせ、恐る恐る舌を出した。舌先で、感触を確かめるようにアキトのそれに触れる。  目が塞がれている志岐で遊ぶように、アキトはわざとすぐには咥えさせずに、志岐の顔に自分のものを擦りつけた。志岐はそれに首を振り、はくはくと口を開閉させてアキトのものを探す。その姿は滑稽であり、男の征服欲を満たすようで、アキトの表情が変わるのがわかった。  アキトは志岐の顔から一旦自分のものを離し、顔を近付づける。そして、志岐の差し出された舌に、自分も舌を出して絡める。しばらくそうして味わったあと、顔を上げ、志岐の顔に唾液を落とした。  志岐はそれに一瞬顔をしかめるが、桜田からの刺激に、声を上げてその表情を消した。 「あんなことする予定でしたっけ……?」  椿は近くにいた女性スタッフに、思わず声をかける。  予定では、少し志岐がアキトのものを舐めて、それに嫉妬した桜田が、志岐に玩具を挿れるというものだったはず。 「あー……アキト君ってすぐああいうことするんだよね。台本になかったこと」 「監督は止めないんですか?」 「むしろそれ期待してアキト君キャスティングしたんじゃないかな。ほら、桜田君ってあめ君と仲良いから、あんまり酷くしないじゃない?」 「酷くって……」 「マネージャーさんうちのメーカーの見てるんでしょ? 結局それが売りなんだよ。売れるんだよね、無理矢理してるの」  呆れたように撮影を見やって、その人は自分の仕事に戻ってしまった。  酷くって……。  やっぱりそうなのか。台本に書かれた通りでも、十分酷いものだった。それ以上に何かやるって?  志岐はそれを、わかっていたんだろうな。前にもやったことがあるんだから。わかっていて引き受けたんだ。 「あぁあーっ」  志岐が叫んで、椿は我に返った。  玩具を突っ込まれた志岐が、身体を捩っていた。桜田に持ち上げられた下肢が、ビクビクと痙攣する。  ……わかってる。  志岐が大袈裟に声を上げていることは。挿れているのは桜田だし、痛くないように気をつけてくれているのもわかってる。  ちゃんとわかってる。  それでも、あの悲痛な声が嫌なんだ。  ……だから、あの子と志岐を重ねるな。重ねるから辛くなんだろ。  そうか?  重ねなくったって、無防備に笑う志岐を、もう見てしまったから。あんな笑顔をする奴だって、知ってしまったから。  だから辛いんだろう。 「いい声。だけどちょっとうるさいよな」  アキトが口の端だけを上げて笑う。目を塞がれ、腕の自由も拘束され、快感も痛みも逃しようもなくベッドの上で声を上げる志岐の口を、今度こそ完全に勃ちあがった自分のもので塞いだ。 「んぐ……っ」  桜田が一瞬眉を寄せる。 「あんま乱暴に扱うなよ。俺のなんだから」 「でも今日は貸してくれんだろ?」  あくまでも演技しながら止めるしかない桜田を馬鹿にするように笑い、アキトは志岐の頭を掴み、喉の奥まで咥えさせた。 「おい……」  桜田が監督に目線を送るが、監督はそれを無視し、続きを促した。  桜田とアキトのやりとりを耳から聞くしかできない志岐は、必死にアキトのものを刺激していた。鼻から抜ける声に嗚咽が混じっている。 「ほら、もっとさ……っ」  志岐の頭を固定して、アキトは腰を打ちつける。えずく志岐に構わず続けられる行為に、椿は目をそらしたくなった。  腕を拘束されて自由がないこともあり、自ら身体を動かすことができない志岐は、まるで人形のようだった。志岐が弱っていくように感じた。 「はっ、気持ちいっ」  桜田はカメラが志岐とアキトを映しているのをいいことに、玩具を引き抜いた。志岐の負担を減らそうとしてくれているのだろう。萎えている志岐のものを手で包み込む。  しかし志岐の意識がそちらに向こうとすると、アキトはなお激しく志岐の喉に打ちつけた。 「あ、イキそ……っ」 「おいっ」  桜田が止める間もなく、アキトは志岐の喉の奥に吐きだしたようだった。 「かっは……っ、げほっ」  志岐がむせる。アキトはそれを満足気に見下ろしていた。恍惚とする表情に、椿はぞっとした。  桜田が志岐の目隠しを外して、監督に合図する。やっとカットの声がかかるが、志岐は咳き込み続けている。  椿はスタッフに水をもらって志岐に駆け寄った。志岐は差し出された水を受け取るが、一口飲んで嘔吐してしまった。 「志岐……!」 「一旦休憩にしよう。あめを控室に。シャワー浴びておいで」  監督に促され、桜田が志岐にシャツを羽織らせて抱える。  アキトは着いてこなかった。

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