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第七章 八

 湯船に浸かる志岐は顔を上気させていて、浴室に入った椿は、姿を見ただけで勃起しそうになる自分の浅ましさに泣きたくなった。 「はは、なんか変な感じ。椿と一緒に風呂入ってるなんて」  椿が身体を洗っていると、志岐は楽しそうにころころと笑って話しかけてくる。椿はというと妙に緊張してしまっていて、「あー」とか「うん」とか気のないような返事しかできなかった。志岐は椿のそんな心情もわかっているみたいで、ますます可笑しそうに笑いながら話をした。  緊張しないもんなのかな。慣れたらしないもの? まあ、志岐が楽しそうだからいいかと思うことにする。 「背中流すよ」 「あ、ありがと」 「タオル貸して」  湯船から出てきた志岐にタオルを渡すと、椿は即ぐるりと背中を向けた。志岐の白い肌が目に入ると、すぐ下半身に血流が集まってくるから。志岐は湯船の縁に座っている。  志岐に背中を洗われている間、椿は必死に苦手だった学校の勉強や事務所に就職してからの失敗を思い出して気を逸らしていた。  しかしその努力は、突然背中に感じた感触に水の泡となる。志岐が、いつの間にかタオルを床に落とし、椿の背中に手のひらをぺたりとつけたのだ。その手が、腋下を通ってゆっくりと胸へ回る。湯船の縁から降りた志岐が、椿を後ろから抱きしめるかたちになった。 「すごい、ドキドキしてるね」  顔が、吐息を感じるほどに近い。耳元で囁かれる声に、肌が粟立つ。石鹸のすべりを利用して、するっと椿の胸の先端へ志岐の手が移動した。 「ん」 「……感じる?」  きゅっと指で摘まれ、吐息が漏れた。 「志岐は?」  そう言って振り返る。志岐は椿がまだ動くと思っていなかったのだろう。驚いてペタンと尻もちを着いた。膝を立てて開脚したままだから、緩く勃起した志岐のそれが目に入る。 「勃った?」 「勃つよ。椿が可愛いから」  志岐はそれを隠すどころか、さらに足を広げた。無防備に腕も下ろすから、ピンク色の胸の尖りも、女の子のようには柔らかみのない骨の浮かぶ身体も、薄い陰毛の下の淡い色をして勃つものも、志岐のすべてを見ることができるようになる。 「椿も勃つ? 男の身体見て」 「……志岐の身体なら」  その言葉に、志岐は目を落として椿の熱を確かめる。その瞳が、嬉しそうに細められた。 「よかった……」 「まだ心配してたのかよ?」 「するよ。そりゃあ、する。勃たないから見せたくなくてこっち向かないのかなって思った」 「……すぐ勃ちそうになるから情けなくて」 「あはは、俺もすぐ勃ったもん。椿だからかなあ。ほんと、触られてもないのにさ、キスだけでイクかと思った」 「嘘だろ。余裕そうだったじゃん」 「ほんと。じゃあもう一回してみて? ちゅー」  目を閉じない志岐に唇を寄せる。何となく自分だけ瞑るのも嫌で、椿も目を閉じなかった。お互い見つめ合ったままキスをした。志岐の潤む瞳だけを見つめる。  舌を絡ませていると、志岐が椿の熱を持った箇所に手を伸ばしてきたのがわかった。石鹸の滑りをかりて擦られ、完全に勃起する。  熱い息が漏れる。椿は志岐の膝から足の付け根まで手で撫でる。そっと確かめるように、志岐のものを握った。触れていなかったのに、先端からは先走りが溢れ初めていた。先程、志岐がキスだけで射精しそうになるというのは本当だったのだと、椿は嬉しくなる。  志岐は強く椿のものを擦る。椿もそれに負けないように手を動かすのだが、志岐は膝を閉じてしまった。腕が上手く動かせないように挟まれてしまう。 「なん、なんで……っ?」  口唇を離して、抗議した。 「椿がイクとこ、ちゃんと見たいから」  志岐は笑って、痛いくらいに強く椿のものを扱いた。 「志岐、ぁ、イク、離せ……!」 「イッていいよ。見せて、椿……」  まだ石鹸が付いているのに、志岐は構わず椿の胸に舌を伸ばした。食まれ、身体が跳ねる。 「ほんっと、俺だけ、やだ……ぁ、志岐、」 「お願い、一回イクとこ見せて」  椿の胸を舐めながら、志岐は気持ち良さそうに熱い吐息を漏らす。なぜ一方的に自分が射精するところを見たいのかわからなかった。しかし、刺激に逆らうこともできずに、椿は吐精した。 「ああ、椿可愛い」  椿が脱力して志岐の肩に顔を埋めるように倒れ込むと、志岐はぎゅっと椿を抱きしめた。ふふ、と満足そうに笑うのがわかった。  可愛い可愛いとさっきから連呼され、やっぱり志岐は俺に挿れたいのかなと、椿はぼんやりと思う。優しく背中を擦られるのが、心地良い。 「椿がイクとこずっと見たかった」 「ずっと、って」 「あの動画を初めて見たときから」  いつか自慰も見せて、なんて耳元で言われる。志岐は俺に何を求めてるんだろう。  石鹸を流される。志岐は楽しそうに股間にシャワーをあててきて、その刺激でまた身体がビクビクと震えた。 「も、何なんだよ志岐。俺で遊んでるだろ」  少しだけ怒ったふりをしてよろよろと立ち上がる。 「うん。ああ、椿が気持ちいいこといっぱいしたい」  そう言って、志岐はシャワーを止めて椿の前に膝を着いた。舌を、射精したばかりで萎えている椿のものに這わせた。 「志岐っ」 「ごめん、止まらないんだって。嫌になったら言って」 「じゃなくて、嫌とかじゃなくて、……志岐、ちょっと、待てって……ぁっ」  志岐は椿の熱の溜まる箇所を柔く揉みながら、先端を口に含む。志岐の口腔内は熱く、その体温を感じるだけでまた簡単に膨らみ始める。  志岐が興奮しているのがわかる。触っていない志岐のものから、またとろりと先走りが溢れるのが見えるから。 「お願……っ、志岐、ちょっと話聞けっ」 「ひゃだ」  苦しいに違いないのに、志岐は喉の奥まで椿のものを咥え込む。志岐に苦しい思いをさせるのは嫌だから浅くしようとするのだが、椿が腰を引くと志岐はまた深く咥え込もうと顔を近づけてしまう。 「志岐、……っ」  気持ちいい。音がするくらいに吸われれば、気が遠くなりそうだった。  志岐の濡れた髪に指を通す。いつもはふわりとしている柔らかい髪が、今は濡れてぴったりと額に張り付いている。顔を隠してしまう髪をかき上げるように撫でると、志岐が上目遣いにこちらを見た。  だらしのない顔をしているだろうと思う。しかしそんな椿を嬉しそうに見ながら、志岐はまた口をすぼめて強く吸った。 「あぁっ」 「んく……」  また一人で欲を吐き出してしまうのは嫌だ。そう思い、椿は志岐の頭を両手で掴んで離した。  ぷるんと志岐の口から出た椿のそれが、志岐の頬を掠める。志岐はまるで何か可愛がっているものでも見るように、甘い顔をしてそれに頬を擦り寄せた。椿は慌てて志岐と目線が同じになるようにしゃがんだ。 「……椿、またイキそうだっただろ。なんでやらせてくんないの。椿の飲みたい」 「飲みたいって」  瞳が欲に染まる志岐は壮絶に色っぽくて、顔を見ているだけでくらりとする。  ……俺も志岐に触れたい。 「俺も、志岐が気持ちいいことがしたい」  思い切り、甘やかしたい。ただ切実にそう思う。目を見ながら言うと、なぜか志岐がうつむいた。何か変なことを言ったかと、椿は焦る。 「志岐? え、やだ? 俺が触んのは駄目?」  椿に顔を見せないまま、志岐は首を振った。

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