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最終章 六
色々手間取りながらも何とか中を洗って、何となく恥ずかしくて志岐の顔をまともに見れないまま、椿は素っ裸でベッドに潜りこんだ。椿に続いてシャワーを浴びに行った志岐を、布団をかぶって待つ。
自分で少しは馴らしといた方がいいのかなと思ったけど、志岐に何もするなと言われた。傷つけたら大変だからと。いつも世話を焼いているのは椿の方なのに、世話を焼きたがる志岐にむず痒くなる。
──志岐から離れて勉強しようと思ったのは、志岐の再デビューの日付と、曲が決まってからだった。
志岐が一生懸命歌に向かい合い努力する中で、椿は自分はこのままでいいのかと思い始めた。それは焦りではなく、憧れの気持ちに似ている。椿はAmeに、志岐に憧れていた。自分が辛いときにも笑えるような、あんな風に強い人間になりたいと思っていた。
辛い事を隠して笑うことが、今はいいことだとは思わない。今それを志岐にされたら、悲しい。しかし、そうじゃない強い人間がいるのだと、知った。好きなことに真摯に向かう姿。それを、なんて強いんだろうと思った。好きなことを好きなように、ではなく、好きなことに挑むように向かう姿。自分もそうなれたらと思った。
自分勝手かもしれない。志岐との将来を考えているが、それは椿が勝手に思い絵描いている未来だ。
志岐を苦しめることもあるかもしれない。志岐は守ってほしいなんて思っていないだろうし。守る力がほしいと言うのは、自分の我儘だとわかっている。
でも、それを志岐は聞こうとしてくれている。嫌だと椿を叩いた、あれが本音なのに。それを抑えて、理解ろうとしてくれてる。
愛しい人。
早く出てこい。触れさせてほしい。触れてほしい。
志岐はバスタオルを羽織って出てきて、濡れた髪もそのままに、すぐにベッドに入ってきた。
「髪乾かせよ。風邪引いたらどうすんだ」
「すぐ乾くよ。これから熱くなるんだから」
「駄目だ。せめてよく拭かせろ」
椿はベッドからむくりと起き上がり、志岐からバスタオルを取り上げて、その頭をガシガシと拭いた。
「あはは、力強いって。犬猫じゃないんだから」
文句を言いながらも楽しそうな声を出すから、背後からでもどんな顔をして笑っているのか想像がつく。
よく拭いてから身体に触れると、やはり冷えていた。細い肩が冷たくて、温めるように後ろから覆いかぶさった。
「椿は体温高いなあ」
クスクスと笑う志岐は、やはり楽しそうだ。
耳を軽く食む。志岐は微かに声を上げた。
「ん……、くすぐったいよ」
志岐の色づいた声に、椿の欲も高まる。滑らかな肌を撫でる。肩から、胸へ。尖り始めた箇所を摘むと、声が高く、甘くなる。力を抜いて椿に寄りかかる志岐を、ベッドに寝かせる。椿を見上げる志岐は、色っぽく微笑んだ。こんなとき、やはり志岐の方が余裕を見せる。
「なんか今日は急くね」
「志岐に触りたい」
「いいよ。触って? でも俺も触らしてね」
「うん。好きなだけどうぞ」
そう言って、志岐の唇を塞ぐ。がっついて、ちゅくちゅくと音がするくらいに吸うと、次第に志岐の瞳がとろんとしてくる。
自分にも触らせてと言ったわりに、志岐はやんわりと椿の背中に手を回すだけで、動かさない。それならそれでと、椿はだんだんと口づける位置を下げていった。先程摘んでピンと立ったものを舐めれば、志岐は甘い声を上げた。
「あん……っ」
軽く歯を立てながら、手は志岐の股間へ伸ばす。椿が熱を持ち始めたものに触れると、志岐は快楽を逃すように身体を捩った。
「椿……、いいよ? 俺に挿れたかったら、そうして?」
「……お前が俺に挿れたいんじゃねえの?」
「挿れたいけど……」
「何遠慮してんだよ?」
そう聞くと、志岐は椿の耳元で囁いた。「……嫌われるのが怖い……」と。
自分は志岐に簡単に落とされてしまうと思った。こんなことを言われて、尽くせないわけがない。なんでもしていい。好きにされていいと思える。
「嫌えるわけねえじゃん。なあ志岐、俺に何したい? 何してほしい?」
自分でもしまりのない表情をしてると思う。志岐がとても可愛く思えて、ニヤけてしまう。
「……変な顔」
「失礼だな!」
「……椿、ほんとにいいの?」
「いいよ」
迷うことなく答えた。志岐に安心してほしくて。椿にとっては、挿れるのも挿れられるのも、あまり変わりはなかった。
……いや、そりゃちょっとは、ビビるけど。でも志岐と身体を繋げるということが嬉しいから、本当は、どうでもいいんだと思う。
志岐は起き上がる。それと逆に、椿はベッドに横になった。志岐が腹部に乗るが、そのあまりの軽さに笑ってしまう。
「なんで笑うんだよ、緊張感ないな」
「だって志岐、軽すぎる。俺と同じもん食ってんのになんで?」
「……うっさいな。腹筋はしてる」
そうは言っても腹が割れてるわけでもなく、やはりほっそりとしている。歌のために鍛えているのは知っているが。
「椿こそなんで腹筋割れてんの」
「えー、でも現役時代と比べたらだいぶ情けない身体んなってんぞ」
「現役って、ヤンキーの?」
「うっ、ソウデスネ」
「自分で言ったくせに」
クスっと笑った志岐は、身体を下方にずらし、椿の腹に舌を這わせた。
「なぞんななぞんな」
くすぐったい。
志岐の髪に手を通す。まだ少し湿っている髪が、冷たい。舌が腹筋を辿っておりて行き、やがて膨らみ始めた椿のものに到達した。
いつも志岐は、まず椿のそれを大事なもののように撫でながら、うっとりと見る。それから、優しく先っぽを舌でつつき、咥えていく。
冷たい髪と対照的な熱い口腔内に包まれれば、椿の口唇からも熱い吐息が漏れた。
「んく……」
「志岐……っ、気持ちいー」
そう言って頭を撫でると、嬉しそうに喉を鳴らし、深く咥え込んでいく。苦しくないのかと聞いたことがあるが、「苦しいのが気持ちいい」と言われてしまって、閉口した。
睾丸をやわやわと握りこまれる。
「はっ、志岐……、志岐のも、咥えさせて」
「ん」
志岐が椿の上で体勢を変える。白く綺麗な尻が椿に向けられる。それを撫でて、しっとりとした感触を楽しむ。
「もうちょい腰上げて……うん、そう」
「ぁんっ」
志岐のものに舌を伸ばすと、高い声が漏れた。熱い吐息を感じ、椿もぴくりと大腿が跳ねる。口淫にも、だいぶ慣れた。志岐のようにはいかないが、吸うのも上手くなったと思う。
吸いながら根本を扱くと、志岐の腰が跳ねる。
「ま、待って、あぁっ」
志岐と肌を重ねるたび、自分はおかしくなっているのかもと感じる。
元々ノーマルだったはずなのに、志岐の色の薄かったものが、色づいて先走りを溢し出す光景も、頬に触れる柔らかい下生えも、目の前にあるヒクヒクと動く後孔も、可愛く思えて仕方ない。
志岐がどこを擦ったり突いたりすれば気持ちよくなるか、もうわかっているから指を挿れたくなるが、そうすれば志岐はきっと椿が挿れたいのだと思って、そうさせてしまうだろう。だから今は触らず、椿は前だけを咥えた。
「椿、お願、待って……っ」
懇願されて、吸うのをやめた。舌で舐めるだけにすると、志岐は余裕が出てきたらしく、椿のものを扱き始めた。そうしながら、つぷりと、指が一本挿れられたのがわかった。
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