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第9話

「ねえ、先輩飲みすぎじゃないっすか?」 「うるせえな、てかお前全然飲んでねえな もっと飲めよ」 初めて来たアイツの部屋は意外にもちゃんと生活感があって 物が何もなくて部屋の中は空っぽなのかと思ってたけど、ちゃんと自炊もしてるみたいで必要な料理器具もあったから少しだけ安心したけど チラッと見えた本棚の上に飾られたアイツとあの人のツーショットの写真は見ないふりをした バイト終わりにコンビニで大量にかった酒をアイツはハイスペースで飲みまくっている そんなに飲んで大丈夫なのかな、なんていう俺の心配をよそにあいつはどんどん酒を煽る 「ほら、これ飲めよ一気な」 そして、グラスに入れたウィスキーのロックをすすめてきた こっちはお前を心配してるのになんてやつだ! ほんのり赤く染めてるアイツに少しいらだって、ウィスキーなんて飲んだことがないのにぐいっと飲み干してしまった 喉が熱くなって、それに顔も熱くなった アイツからこんなに近くで見つめられることなんてないから 「ッ、きっつ」 「ナナミ、いい飲みっぷりだな!」 って笑いながら肩をたたいてきて、 「あっちのナナミとは違って」 そう続けてアイツが言った 酔いが回ってしまったせいか、その言葉を聞いてしまったせいか 頭がカッとなって 「西谷先輩って名波さんのこと好きですよね?もちろん、ラブの方で」 絶対に聞いてはいけないし、俺も絶対に聞かないようにしていたことを言ってしまった 「は?何いってんのお前?」 さっきまで酔いが回ってほんのりと顔が赤かったのに俺からの言葉で、酔いが冷めてしまったのか顔色も少し悪くなった 「見ていればわかります、まあ気付いてるのは俺くらいかもしれないですけど」 止まれ、 「俺、ゲイなんです、男が好きなんですよ、あんたが名波さんのこと物欲しそうな目でずっと見てたからさ〜分かるんだよねそういうのって」 止まれって、 「ねえ?辛くないの?ノンケを好きになるのって」 知ってるに決まってるだろ、だからもう恋なんてしないって決めたのに俺は だけど、こいつに、西谷輝に一目惚れをしてこの恋を大切にしようと思ったんだろ なんで心の中ではこんなにも冷静なのに、俺の口は止まらないんだよ 「辛いに決まってるよね、あっちは女の人にしか興味がないんだから、こっちなんて見向きもしないもんね」 「黙れ」 「気づいてた?あんた、あの人が彼女さんと一緒に来てからわかりやすいくらいに動揺してたんだよ、どうせそのことを思い出したくなかったから俺のこと呼んだんでしょ?」 「黙れよ」 「そりゃそうだよね、あの人のこと夜ひとりで考えたくないでしょ、だって今頃きっと彼女さんと楽しんで、ッ 「黙れって!!!!」 ドンっと大きい音がして、背中に激痛が走った あぁ、俺押し倒されてる 何事かと思ったけど、すぐに気づいた あいつの顔がさっきよりも近くにある これがこんなシチュエーションじゃなかったら最高だったのに 「なんだよお前、さっきから言いたい放題じゃねえか、なめてんの?」 「ほんとの事でしょ、そんなにムキになるってことは認めてるんじゃないの?」 感情を押し殺したかのような目に、怯みそうになったけれど 出てくる言葉は 止まらなかった、 「ねえ?辛いでしょ、、そんなあんたの事見てられないんだよこれ以上、だって俺は」 あんたのことが好きだから 言いそうになってやっと我にかえる 俺は今何をいおうとしたんだ、 俺が何も言わなくなって沈黙が続く中、あいつがそれを破る 「なんだよ」 「なんでもねえよ、でもあんたのつらそうな顔見たくねえよ俺は」 アイツは何も言わない、俺の顔をじっと見るだけで それが耐えられなくて バッと起き上がり、ウィスキーをグラスに注ぎ、もう一度口の中に流していく 酒のチカラを借りたかった、自分の言葉を吐き出したかった 肝心な言葉は 好きだという言葉は言えないくせに 急に起き上がって一気飲みした俺にアイツはポカンとしてて、そんな間抜けづらに言ってしまった 「俺のこと、名波さんの代わりにしていいよ」 そういった俺の声は少し掠れていて、すごく情けなく思った 口の中に広がるウィスキーの味はやっぱり美味しくなかった

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