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第13話

今日はほんの少しだけ胸騒ぎがした それが何故だかわからなくて、でも久しぶりに会うあいつの事を思ったらそんなことも忘れていた まあ、会うといってもバイトでなのだけれど、それでもとても胸が高鳴った 「来週から新人入ってくるからお前に指導頼むわ」 バイトに出勤してすぐアイツから告げられた言葉 「え?俺がするんすか?」 「あぁ、お前入ってからだいぶ経つしなあ それにキッチンのヘルプも俺行かなきゃだ し、まあ、お前教えるのうまそうだし大丈夫っしょ!」 そう言いながら俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくるアイツ そんな俺たちを見て、相変わらず仲いいねぇ〜ってオーナーが言っている 本当はもう違うのに、 バイト先でも大学で会ってもコイツの俺に対する態度は以前とは変わらない 態度が変わるのは2人きりになった時と、俺があの人の代わりになっている時 でもお互いに、仲のいい先輩後輩のふりを続ける 誰にも悟られないように 「え〜、そこまで西谷先輩が言ってくれるなら頑張っちゃおうかな〜〜、ちなみに女の子??」 誰が入ってくるとか、それが男か女かなんて全く興味なんかないけど、今の俺は【ナナミ】だ あの人がききそうな事をあの人みたく聞く 「期待を裏切るようで悪りぃけど、男でーす!チラッと証明写真見たけどすんげえ美形だった気がするわ、まあ俺には敵わねえけどな!」 そんな自信過剰なセリフを吐いて、俺を見てニヤって笑うから本当にタチが悪い 本当に、勘弁してカッコ良すぎるからッ! まあそんなこと、当然言えるわけなく 「えー!なんだよ〜野郎なんすか、萎えましたわ」 心の声を漏らさないように笑いながら一ミリも思っていないことをあいつに言う 「分かりやすいくらい萎えんなよな〜 でも多分すぐ仲良くなれんじゃね?お前と歳も確か一緒だった気がするし、大学はちげえけどな」 「え?俺と同い年なんすか?」 なんでかわからないけどまたざわざわと胸騒ぎが始まった 「そーそー!確か、名字も似てるわ!大原っていってたわ、名前がなんだっけな〜、ひろじゃなくて、、確か難しい読み方だった気がする」 それが少しだけ確信に迫る 「おお、はらひろ」 『大原の下の名前ってひろでいいの?』 『それよく言われるけど不正解な、正解は----』 まさか、と思った いや、そんなはずはない、あいつなわけない だって、地元からだって離れたのに 絶対名字が一緒なだけだ、下の名前だってきっと違う、全くの別人に決まってる 俺の思い過ごしに決まってる そうであってほしかったのに、 「あ!そうだ!思い出したわ」 ハッと思いついて笑顔で言うアイツの姿は、あいつと重なって見えた 「『尋って書いて、じん、だ』」 大原尋、それは俺の元同級生で 元親友で、 そして 俺の初恋の相手、 「尋が好きだ」 俺が裏切ってしまった人だった

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