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拾伍*

――一時仏在 舎衛国 祇樹給孤独園 与大比丘衆 千二百五十人倶  三度も互いに致したのち、靖久は寝入った。靖久がたやすく目覚めぬよう青成は弥生の君から与えられた眠る毒を含ませた。 ――皆是大阿羅漢 衆所知識  長老舎利弗  摩訶目犍漣  摩訶迦葉  摩訶迦旃延  青成は白い着物、死装束と縹色の小袿を纏う。靖久の寝所にある腰刀を鞘から抜き、(つか)を眠る靖久に握らせる。 ――摩訶倶絺羅 離婆多 周利槃陀伽 難陀 阿難陀 羅睺羅 「靖久…俺は…次は、強く生きる……また、会うた時は…共に生きよう…。」 ――驕梵波提 賓頭盧頗羅堕 迦留陀夷 摩訶劫賓那 薄拘羅 阿那律  青成は己の臓が貫くよう、刃を肌に合わせた。 ――如是等 諸大弟子 并諸菩薩摩訶薩 文殊師利法王子 阿逸多菩薩 乾陀訶提菩薩 「さらば」  青成がひとすじ涙を流し、笑うと、青成と靖久は赤く穢れる。 ――常精進菩薩 與如是等 諸大菩薩 及釋提桓因等 無量諸天 大衆倶 「靖久…や、す…ひさぁ……。」 ――爾時佛告 長老舍利弗 從是西方 過十万億佛土 有世界 名曰極樂  大げさな音で青成は靖久に向かい合うよう倒れた。声をあげぬようつとめるが、口からは血を零す。 ――其土有佛 號阿彌陀 今現在說法 舍利弗 彼土何故  だんだんと目路は暗くなる。闇が多くなる。安らかな靖久の寝顔も霞む。 ――名爲極樂 其國衆生 無有衆苦 但受諸樂 故名極樂 「やす、ひ、がはっ!があっ!――又舍利弗 極樂國土 七重欄楯 七重羅網 七重行樹   想い合ったものの名すら、口にすることが出来ぬようになった。 ――皆是四寶 周帀圍繞 是故彼國 名曰極樂 (これで…靖久は、安らかに…生きられる…。)  曙、滝原の邸、靖久の寝所から荒ぶる声が響いた。 「靖久殿の寝所に鬼がおったぞ!」  滝原の邸に仕える女官や護衛の兵たちは其の声を聞きつけた。 「靖久殿!」 「いやあああああ!」 「検非違使を!早よ検非違使を呼べ!」 「弥生の君にもだ!此奴は羅生門の鬼じゃ!」  靖久は騒ぎ立つ声で目を覚ました。 「青成……まだ、眠って……。」  青成の顔が見えわずかに笑ったが、青成が尸になっておることが見えた時、靖久は。 「あああああああああああああああああ!」

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