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呪いが解ける日
「スプーン使い方、上手になったよね」
僕は頬杖つきながら、ランの顔を眺める。
スプーンでカレーを頬張る姿がかわいいと思う。
というより、出会った頃からランのことをかわいいと思っていた。
駅前で座り込んで、沈んだ顔。
何となく放っておけなくて、声をかけた。
初めて振舞った料理は肉の入ったパンプキンスープとパン。
急に手を使って肉を食べ始めた時はさすが驚いたけど、ぽつりぽつりと話し始めたランの身の上を聞き、納得した。
この子は誰かと食事をする楽しみを知らない子なんだ。
それ以来、食事を一緒に取るようにした。
「そろそろ、包帯を変えてこようかな」
僕は脱衣場に入ると、がちゃりと鍵を閉めた。
僕はミイラ男だからお風呂には入れない。
乾燥した状態じゃないといけないからだ。
本当は毎日包帯なんて替えなくて良いんだけど、元々綺麗好きだから、毎日包帯を取り替える。
腐臭を気にしないように、ミイラの包帯用の柔軟剤を使って、腐臭を感じさせないように気を遣っているしね。
ランに一度だけ、包帯の中はどうなっているのか聞かれたことがあった。
「見ない方がいいよ。気持ちのいいものじゃないから」
ミイラの包帯の中身なんて、ろくなものじゃない。
包帯を替えるとハロウィンの特集番組をランが見ていた。
人間界での人の驚かし方とか、ゾンビ用の血糊のCMやら色々流れている。
その中でゾンビのコメンテーターが「ハロウィンというと、一部のお化けたちの呪いが解けるなんて噂がありますねぇ」と話していた。
「それは噂じゃなくて、本当のこと。元々人間だったお化けが特にそうなんですけどね、人間だった時に何か悪いことをした者がハロウィンの夜だけその罰を許されるんです」
僕も罪を犯した。
だから、ミイラのまま生きているのだ。
ぼんやりとテレビを見ているランの傍によって、耳元で囁いてみた。
「僕もこの時は呪いが解けるんだよね」
「うわぁ!」
ランは仰け反りながら、ソファから落ちた。
「急に近づいてくんなよ!」
「ごめんごめん」
ランは顔を真っ赤にしながら睨んできた。
けど、尻尾はブンブン揺れている。
可愛いね、ランは。
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