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おつかい
8時半。
パチリと目を覚ました俺は、スーパーのバイトが休みであることを思い出す。
もうちょっと眠れるな……
布団を抱きしめて、もう一度寝ようとすると、リリリリリン……と電話の音が聞こえた。
無視しようかとも思ったが、何か大事なことだといけないと思い、部屋を出て、黒電話の受話器を取った。
「……もしもし」
俺は電話が苦手だ。
相手の表情がみえないというのが、とても不安なのだ。
『あ!ラン、良かった起きてたんだね……』
「カムラ?どうしたんだ?」
『実は自分の部屋に書類を忘れて……取りに戻る時間もないし、ランに持ってきてもらおうと思って』
「別にいいけど……俺、カムラの仕事場知らないよ」
『大丈夫!電車で一駅だけだから』
場所を教えてもらい、茶封筒を携え、カムラの仕事場へ向かった。
急行電車で一駅。
『冥界』という駅で降りた。そのまま真っ直ぐ行き、何階建てか分からないくらいの高さのビルが建っていた。
赤茶色の煉瓦造りのビルで、中に入ると大きなシャンデリアが吊られており、柔らかそうなソファーなどが並べられている。
『ご案内』と書かれたところに行くと、猫の頭をした人物が座っていた。
ブルーの瞳が印象的だった。
「あの……」と話しかけると、「はいー!いらっしゃいませ!」と甲高い声で挨拶された。
「あの、エジプト冥界まで行きたいんですけど」
「エジプト冥界ですね!両壁にエレベーターが3台ずつありますよね。向かって左側の手前のエレベーターに乗って、15階まで上がっていただければ、エジプト冥界に到着しますー。はい」
説明を受け、そのままエレベーターに乗る。
15階まで行くと、受け付けがあり、カムラを呼び出した。
「ラン、ごめんね!ありがとう」
「別に、今日は休みだったし……」
「裁判、午後からなんだ。少し早いけど、ランチに行こうよ」
カムラに促され、エレベーターで20階まで上がった。
どうやら食堂らしく、様々な料理が並んでいた。
「今日は中華な気分だから、Bランチにしよ。ランは?」
「同じでいい」
カムラは財布からお金を出して、食券を2枚買った。
麻婆豆腐セットだった。
机で麻婆豆腐を食べながら、辺りを見渡すと、ミイラや骸骨、首だけのおじさんなど色々な者達がご飯を食べていた。
「ここって色んなやつがいるんだな」
「そうだね。冥界は死者の裁判所みたいな所だからね。特にたくさんいるね」
「……カムラは何をしてるの」
「書記官。裁判の記録を書き留めてるんだ」
「ふーん」
「君から僕のことを聞いてくるの珍しいね。僕のことを知りたくなった?」
カムラはニヤリと笑う。
その態度がなんだか悔しくて、「別に!知らなくても良かったけど」と吐き捨てた。
「知らなくていいことなんてないよ。僕は君のこと、たくさん知りたい」
俺の頬にそっと手を添え、「豆腐が付いてる」と口元に付いていた麻婆豆腐を取った。
「~~っ!これくらい言われたら自分で取れる!!」
子供扱いされたみたいで腹が立ちながらも、触れられた頬が熱くなるのを感じた。
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