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狼男のバイト
「もうすぐハロウィンです。本社から来たハロウィンセールのチラシをお客様に配布してくださいね。朝礼は以上です」
牛乳瓶の底みたいな眼鏡をかけた男が朝礼をすますと、社員やバイトはそれぞれの持ち場に移った。
眼鏡の男は、俺が働いているスーパーかぼちゃの新しい店長で、魔法使いらしい。
名前はタナカ。
「あ!ランくん、ちょっと待って」
タナカはことある事に俺に話しかけてくる。
正直、めんどくさい。
「あのーランくん……あの話考えてくれたかな?」
「は?」
あの話と言われても、全く思い出せない。
「僕と契約して、使い魔になる話だよ!!」
「あー……その話は断ったはずだけど」
「諦めきれないんだっ!」
ずいっと寄ってくるタナカに、「いや、諦めろよ」と言いたくなるが、一応店長なので言わないようにこらえた。
「君のそのモフモフの尻尾を撫でたくて撫でたくて……」
そっと触れようとしてきたため、さっと後ろに下がり、持ち場に行った。
俺は店長のねちっこさに嫌気がさしていた。
元々は家賃を稼ぐために働いていたので、あまりしつこく付きまとってきたら、辞めてやろうと思っていた。
仕事をこなしつつ、夕方になった。
このスーパーで一番忙しい時間帯に入った。
普段、精肉コーナーで働いている俺もこの時はレジの方へ回り、ピッピッと商品をレジに通していると、「お願いします」と聞き慣れた声が聞こえた。
「!?」
顔(?)を見ると、同居人のミイラ男がそこにいた。
「な、何してんだよ!?」
「何って買い物だけど」
「俺がバイトの時は来るなって言ってるだろ!!」
口喧嘩しつつも、レジ慣れした俺の体はカムラの商品を次々にレジを通していく。
レジは流れが良くないとクレームに繋がるって、この道40年のパートのマリアさん(幽霊)に言われたからだ。
「だってスーパーかぼちゃ、特売日だったから。安い方がいいでしょ?」
「そうだけどっ!わざわざ俺のレジの並ばなくていいだろうが!……3250パンプキンになります!!あとポイントカードのご提示お願いします!!」
もう半ばやけくそだ。
「4000パンプキンでお願いします。あとポイントカード忘れました」
ニコニコと言ってのけるカムラに、俺はレシートにハンコを押した。
「お釣り750パンプキンです!あと1週間以内にこのレシートを持参してもらったら、ポイントカードにポイントをつけるので、次は持ってきてください!ありがとうございました!!」
「……ラン、もうすぐバイト、終わりでしょ?一緒に帰ろう。待ってるから」
カムラはこそっとレジ打ちする俺にそう言った。
別に一緒に帰られなくったっていいんだけど……!
次のお客さんに「兄さん、尻尾暴れてるよ」と言われるまで、尻尾を振っていることに全く気が付かなかった。
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