9 / 11
ハロウィンの夜
ハロウィンの朝、カムラが作っておいてくれた弁当を食べた。
カムラがいない朝なんて、変なの。
ほんの少しだけ寂しくて、ご飯も何だか味気ない。
森にいた頃は、一人が当たり前だったからご飯が味気ないなんて思わなかった。
街はハロウィン一色で、かぼちゃをくり抜いて作ったジャック・オー・ランタンが飾られ、三角の旗、ガーランド?っていうものも風になびいている。
スーパーかぼちゃでも、オレンジ色のカボチャが山積みになって置かれている。
俺は精肉担当だからあまり関係なかったけど、野菜担当の人達が夜遅くまでカボチャを積み上げていたのを見た。
ハロウィンか……。
カムラ、いつ帰ってくるかな。
大切な人って誰なんだろ。
そんな事を考えながら、俺はバイトに励んだ。
ハロウィンセールだけあって、たくさんのお客さんが来て、てんてこ舞いだったけど、なんとかバイト終わった。
帰り際、あのウザい店長がやってきた。
「ランくん……今夜、空いてる?」
「いや、空いてないです」
「もういい加減、僕のものになってくれよ!」
「!?」
スーパーの裏口で大きな声をあげられ、一瞬怯んでしまった。
「こんなにも君を愛してるのに……」
「あ、愛してるって……俺を使い魔にしたいだけだろ?」
急展開過ぎて、訳が分からない。
「初めはそうだった……けど、君の時々色っぽい表情や香りが僕をそそるんだ」
もしかして、発情期の終わり頃バイト出た時にフェロモンにあてられた?
だったら、すごくめんどくさい。
「ランくん」
そう呼びかけられ、タナカの目を見る。
何かに縛られたように体が固まった。
「なんだこれ!?」
「僕は魔法使いだからね、これくらい簡単さ」
一番魔法使いにしちゃいけないタイプのやつ……。
固まった俺の体を触り、尻尾や耳に触ってくる。
気持ち悪い。
「さぁ、契約を交わそうね」
そう言って、タナカは唇を寄せてきた。
け、契約ってそんな結び方!?
「ば……っ!やめろ……!」
抵抗するも、目をつぶることしか出来ない。
「何してるんですか?」
凛とした通る声。
目を開けると、褐色の肌に肩まで伸びた緩やかなウェーブがかった黒髪。
誰か分からなかったけど、黒い瞳には見覚えがあった。
「その子から離れてくれませんか?」
その男はタナカの体を無理やり剥がした。
その瞬間、金縛りが解け、尻もちをついてしまう。
「無理やりこの子に何かしようっていうなら、出るとこに出るので」
「……べ、別に何かしようなんて」
タナカは言い訳をしようとするも、語尾が尻すぼみになっていく。
男は俺を起こし、「もう彼はこのバイト今日で辞めますので」とだけ言って、マンションに帰った。
ともだちにシェアしよう!