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この唇で君と
マンションの部屋に帰ると、男は俺をソファに座らせた。
「あのさ……もしかして、カムラ?」
「そうだよ。これが僕が生きていた頃の姿」
顔は笑ってるのに、目が笑ってない。
怖い。
「ところで、あの人誰?何しようとしてたの?」
「あの人は……店長のタナカっていう魔法使いで……前々から、俺のこと使い魔にしたいって言い寄ってきてたやつ……」
カムラはふぅっとため息をつく。
呆れられた?
あんなやつを振りほどけなくて……
「どうして、言ってくれなかったの」
「ど、どうしてって……別に言う必要ないだろ」
「僕は、相談して欲しかった」
真っ黒な強い瞳にドキドキする。
いつもの包帯を巻いた細い体と違って、逞しい筋肉質な体。
「君は何も分かってない。どれだけ危なかったか」
「あ、危ないって別に……」と言い訳しようとした言葉はカムラの口の中に吸い込まれた。
カムラの薄い唇で俺の唇は塞がれた。
入ってくる舌がねっとりと絡みついて、離れられない。
発情期の時、抜いてもらった時もキスはされたことはなかった。
だから、カムラにはそういう気持ちはないのかと思っていた。
唇が離れた時、カムラの瞳は少し潤んでいた。
「良かった……この姿になった時、1番初めに君にキスしたかった」
「え……」
「ミイラの体は乾いてるだろう?おまけに腐ってるし、嫌だろうと思ってできなかった」
「カムラは、俺とキスしたかった?でも、大切な人がいるって……」
「君が生まれるずっとずっと昔のことだよ。僕はその人を確かに愛してた。けど、裏切った。だから、今罰を受けてる」
どういうことなんだろう。
その人のこと、今は愛してないのかな。
「昨日はその人にお墓の前でお別れを言ってきたんだ」
「お別れって……?」
「『好きな人ができた。君は自由だ』って。ずっと僕はあの人を縛り続けていた。王家の墓に入り、ずっと僕の魂に寄り添ってくれたあの人を解放してあげたかったんだ」
「カムラは王様?あの人ってどういう人?それに好きな人って……」
次々わく疑問に、「待って」とカムラは止めた。
「今夜は食事をしながら、僕の話を聞いてほしいんだ。今夜はそういう時間にしたい」
カムラは俺の手を取って、食卓の椅子に座らせた。
長い物語のような、カムラの人生の話に俺はじっと耳を傾けた。
こんなにも穏やかな夜は、初めてだった。
好きな人って……もしかして……。
期待しないようにしてるのに、俺はブンブンと素直に尻尾を振ってしまっていた。
終?
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