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第68話

 表示されるのは無事役所に離婚届を提出した旨を知らせる弁護士からメール。今度こそ表情に色を失った西園寺はその場にひざをつく。  離婚届には弁護士と店長が保証人として名が記入されており、西園寺が屋敷に戻るまでに攻撃材料が用意されていた。何もかも周防の計画だと気づくも遅すぎた。  水緒に口づけるというパフォーマンスを目にし、同時に愛する者に牙をむかれすべてを失った。財産も済む場所も失い、生きる糧すら奪われた。  しばし呆然としていた西園寺だが、くつくつと乾いた笑いが込み上げてくると床につっ伏す。土下座のような格好で笑う彼は、常軌を逸するリアルに気が触れたのだろうか。  だが周防は顔色ひとつ変えない。水緒もまた然り。心配や同情など、もはや憐みの念を抱くことはない。壊れてすがたを消してくれとさえ願うほど、彼に対する憎悪は深いのだから。  容赦なく周防がつづける。 「心配すんな。水緒さんは俺が責任もって世話してやるよ──おまえの屋敷でな」  最後に「とっとと出てけ」と忌々しそうに吐き捨てた。  うずくまる西園寺のスーツ後ろ襟を掴み、エントランスまで引きずっていく。周防によって三和土(たたき)に放り出された西園寺を眺めながら、水緒は「さようなら藤隆さん」と別れを告げるのだった。

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