周防は自身のセクシャルマイノリティを捨て、水緒の愛情を手に入れ西園寺から奪略することに成功した。それからしばらくは平穏なときを水緒と過ごし、彼女の心を癒すことに専念。 　根回し済みの友人を経由し、西園寺の情報は逐一周防の耳に届く。それによれば会社が借り上げているアパートに入居し、会社との往復で一日が終わる暮らしをしているという。 　西園寺の勤め先は一度は耳にしたことがあるだろう大企業だ。エリートだった彼は出世頭として部下からの信頼も厚く、ゆくゆくは栄転の話もでていた。 　けれどやつの犯した騒動がすべての人脈を切り、信用を失くした男の末路は惨憺なものだった。今は身を立てるためオフィスの移動は会社の温情により免れているが、いづれ閑職に飛ばされ年俸も三分の一にカットされるという。 　すべての連絡経路を断つと、追い込まれた者は突発的な行動に出ることがあるため逃道を用意しておくよう弁護士からアドバイスを受けた周防と水緒は、互いにスマホを新調したことは伏せ以前のものと二台持つようにしている。 　とはいえ西園寺用のスマホは自宅に放置し、たまに連絡がくると適当に相手をしてやっている。直電は拒否登録をしているので、もっぱらlineにてロミオメールが届く。 　内容は風当たりが厳しくなった職場での愚痴や、毎日が淋しくて心が壊れそうだという泣き言がメインで、付け合せに以前の関係に戻りたいという復縁がつづられる。 　水緒にも同じような内容が届くようで、ふたりして見せ合い「またロミメきたよ」「馬鹿だろあいつ」と笑うネタには事欠かない。