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第76話
至極正論を並べられた弁護士。けれど周防の追及は範疇だったのか微塵と表情を崩さず、それどころか依頼主をまえにふてぶてしくソファに凭れ足を組む始末。
むしろ周防を誘導したうえで欲しい質問をさせたかったのだろうか。
どれくらいそうしていたのか。両者ともに無言でおもてをつき合わせていたが、ふっと小さく笑い捨てると弁護士は腹に溜めた仄暗い思いを語り始めた。
「ふふ、そうですね。確かに周防さんの仰るとおり、弁護士は私情を挟むなど許されない。思っていたよりあなたは馬鹿じゃなさそうだ」
「なっ、はあっ!? 誰が馬鹿だって──」
「ひとが話しているときに口を挟むなど失礼でしょう。まずは最後まで黙って話を聞きなさい。真実を知りたくはないのですか。私が口をつぐめば真相は闇のなかですよ」
「……」
「結構です。では、どこから話しましょうか──」
職務を放棄したとしか思えない態度口ぶりで過去を語ってゆく。
西園寺家は町有数の地主として知られ、藤隆は本家の嫡男として期待された男子。だが近縁筋の者からは「所詮は蛙の子は蛙」との侮蔑も多く、名を穢す不良因子として危惧されていた。
そこへきて突然の水緒との入籍が決定打となり、藤隆は本家の跡取りとして除外されてしまう。けれど本家の正当な後継者は藤隆の母親だけ、姉は子を成さないとして事実上勘当されている。
しかしながら女は当主に就くことはできず、従って現当主である父親が娘に「ふたたび婿をとれ」と政界や企業の上役など権力重視な独身男性との縁談を命じた。
けれど持ちかけられた相手は独身とはいえ五十過ぎの古狸ばかり、モラルハラスメントやドメスティックバイオレンスで妻に逃げられた者や浮気常習者で目白押し。
自分の運命に疲れ果てると彼女はふらりとどこかへ消えるのだった。
するとこれ幸いとばかりに空席となった本家の跡取り争いが分家間で始まり、骨肉の争いといっても過言でない醜態がくり広げられた。
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