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第38話

「なにサクサク乗ってんすか。親父さん車できたんでしょ、だったら三人はあっち乗ってくださいよ」  ついに言ってやったぞ。がんばった俺。けどすぐに香奈が「不経済でしょう。ったくセコいわねえ、男のくせに」とのたまう。不経済だのセコいだのって、それ日本語おかしくねえか。  基本が空気のウト親父、腕を組み威厳と貫禄を醸し出してはいるが、その実たんに女どもに頭が上がらねえだけ。使えねー。  最後はトメ母親に「彼氏ちゃんは音稀くんの夫でもあるもの、なら私たちは家族でしょう。香奈はあなたの義妹、私たちは舅姑。長時間の運転をお父さんにさせるなんて、そんな酷いことしないわよね。これも親孝行、いたわり大切に」と言われ俺撃沈。  音稀も邪魔者家族にはほとほと参っているようだ。蚊の鳴くような声で俺に「ほんとうにごめんね」と頭を下げる。いやいや、おまえのせいじゃねえし。  可愛い音稀の頭をつかみぐいと上げると、目と目を合せてにかりと笑って断言。 「ああ、音稀が謝んなって。つか全然平気、大丈夫。んじゃ、出発進行っ!」  とは言ってみたもの──やっぱり不安しかねえ。問題が起きなけりゃいいが……。

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