144 / 180

第63話

 ● ● ● 「──さん、一将さ──目を覚まし──」  誰だいったい、耳もとで喋ってんじゃねえよ。  ああ、なんだこりゃ。頭がガンガンするぜ。まるで角材か何かで殴られたような───  そこまで考えたところで途切れるまえの記憶がよみがえる。そうだ俺、音稀と滝に向かったんだっけ。確かハプニング・パーティーとかって言ってたか。滝壺にはストーカー野郎の死体……。 「うおっ」  血まみれのストーカー野郎を思いだし飛び起きる。あれ、ここはどこだ。きょろきょろとあたりを見渡したところで、また頭上を激しい痛みが襲う。 「っ()ぅ──っ」 「ほら一将さん。そんなに頭を動かすと、もっと血が出ちゃいますよ」  頭を押さえ前のめりに痛みを堪える俺に、優しい口調で音稀が労わってくる。肩と背中に手をあてがうと、ふたたび俺を寝かしつける。 「はあ、血だと?」  音稀に指摘されるまま、もう一度頭を触ってみると直後に激痛が走る。 「痛ってえ!」  じゅくりとした手触り、かぴかぴになった頭髪。どうして髪が濡れてんだと不思議に思うが、手のひらを見て納得、それと同時に驚愕した。 「うおっ、なんだこれっ」  手のひら一面が真っ赤に染まっている。頭部を襲う激しい痛みに手を染める赤い液体。これって、もしかしなくても─── 「一将さんの血液です」 「ああ!? 血液って、おまえ──」  音稀の顔を見てまたびっくり。こいつ、俺が苦しむのを見て──笑ってやがる。

ともだちにシェアしよう!