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第64話

 もう訳が分からん。いったい音稀のやつ、どうしちまったんだ。俺の音稀はこんな冷たい目で笑うようなキャラじゃなかったはずだ、少なくとも俺の知るかぎりそうだと思いたい。  ガクブルしながら音稀を見ていると、視界に部屋の様子も移り込む。どこかの小屋なのか粗野な内装、どうやら俺は簡易ベッドに寝かされているらしい。  依然として冷たい笑顔を貼りつけた音稀に、とりあえず救急車呼んでくれとお願いしてもいいだろうか。つかそんな雰囲気じゃねえ気もするし、ひょっとして俺ピンチ?  一気に色々なことが脳裡を駆けめぐり、落ち着け俺なにか名案があるはずだと痛む頭で考える。室内は一本のろうそくで明かりを取っているだけ、窓はねえから夜か朝か確かめようがねえ。  時間の概念すらあやふやで、不安がさらに押しよせてくる。どうする、音稀には悪いが殴って逃げ出すか。武器になりそうなものは持っていない、なら隙を衝きゃ楽勝だろ。  背後からかたりと音がした。それに反応して音稀が俺から目を離す。よし、今だ。  悪い、音稀。とこぶしを振り上げたところで、音のしたほうから気配を感じ俺の腕は空振っちまう。音稀が場所を移動したからだ。くそっ、と思いながら気配のもとに目を向ける。  薄暗くてよくは見えねえが、それは俺らのほうへ近づいてくるようだ。少しずつ輪郭がはっきりしてくると、ろうそくの光に照らされ全容が明らかとなった。

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