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第65話

「香奈っ! てめえか、俺を殴ったのは」  ろうそくに照らされた気配の主は香奈だった。  最後の記憶では、俺の目のまえに音稀は立っていた。なら当然こいつが背後より俺を殴れるはずがねんだ。はっきりと口にしなかったが、音稀は共犯者がいるようなことを匂わせていた。  そいつが俺を殴った張本人、いま俺の目のまえに立つ香奈だ。  香奈は怒鳴る俺を見て青ざめている。頭から血流してりゃビビりもするだろうが、やった本人が青くなってんじゃねえよとつっ込みたい。  何も喋らない香奈はただ首を振るだけ。俺の指摘に対し自分はやってないと言いたいのだろうが、この状況で信じられるかと怒りが湧く。頭は痛えわイラつくわでおかしくなりそうだ。  すると少し離れた場所に立つ音稀がくすりと笑い口をひらく。 「ふふ。残念だけど主役は他にいるんだ、そうだよね姉さん。ほら、一将さんに教えてあげなよ」  楽しそうに話す音稀に促された香奈は、すすり泣きながら小さな声で「もうやめて」とこぼす。それから俺を見ると、「ごめんなさい」と謝る。  よくは分かんねえけど、香奈は犯人じゃねえのか。とすりゃ誰が───  音稀の顔色をうかがいながら思考を働かせていると、暗闇からぎしぎしと床板の軋む音が聞こえてきて思考はストップ。そして音の主が光に照らされたところで絶句した。

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