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第67話

 銃を構えて不気味に笑う慶子。それとは逆に音稀からは笑顔がすっと消えた。  手を後ろにまわして何かを取る仕草をする。そして俺らに向かって腕を差し向けた先には、三本の鉤爪(かぎつめ)を持つ熊手。潮干狩りなどでつかう道具だ。  鉤爪の先端は赤黒く塗れていて、それがストーカー野郎の血液だと嫌と解る。ああやっぱり殺したのは音稀だったのかと落胆するが、今はそれどころじゃねえのが辛えなおい。  ゆっくりと近づいてくる音稀、手には血まみれの熊手。どうする俺。焦り出てくるのは「待て、話せばわかる」とか情けねえ言葉だけ。ああマジでどうすりゃいいんだ、もう殺されるっきゃねえのか。  痛てえだろうな、()るなら一思いにやってくれと泣き言を心にくり返していると、銃口を向けたまま慶子が「言い残すことはある?」という。  するとそれまで震えるだけだった香奈が、跳ね上がったかと思えばブチギレた。 「ああ? ふっざけんじゃないわよっ!! なんで私がこんな目に遭わなきゃならないの!! あんたおかしいんじゃない? そんなだから旦那に浮気されるのよっ!!」  ああ、終わった……。グッバイ、儚い俺の命。  まるで雌キングコングのように両手を挙げ威嚇する香奈、魔女からゴリラに昇格してんじゃねえよ。銃口を向けられているにもかかわらず、元嫁に向かって禁句をぶっ放す馬鹿。  まずは弾の飛んでくる先は香奈か、だったらその瞬間を狙って逃げられんじゃね。慶子にタックルして銃を奪い、音稀からスマホを回収して警察に通報すりゃ───  身体は固まっているが目だけぎょろぎょろと泳いでいたのだろう、透かさず音稀が「一将さん、バレバレですよ。逃道はありません」と俺の考えを読みつっ込む。  くそっ、これまでか。しかたがねえ覚悟すっかと腹をくくったところで、慶子が香奈に「あんた自分が被害者だと思っているの」と軽蔑した目を向け問う。  それから「死に土産に教えてあげる」とネタ晴らしを始めた。

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