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第6話

 代表がつきっきりで仕込んだだけあって遥希は弁が立つ。話題が豊富でトークが面白く、そのうえ甘いマスクを有した遥希はホストとしてはほぼ無敵だ。  しかも客に酒を入れさせるが自らは一滴も呑まず、ウーロン茶だけで閉店まで接客する。終始テンションをキープするメンタルは誰にも真似はできず、よって代表と同じ営業スタイルを持つ遥希はホストたちから尊敬されるのだ。  ひと夜のかりそめを楽しむため訪れる客たちに、遥希は愛を切り売りして今日までやってきた。大学を卒業して堅実な仕事に就くのが目標だったが、今やどっぷりと夜の世界に浸かってしまった。  染まりは易いが抜くのは困難であるのが水を売る商売。自身の努力と才能があれば、ひと晩で数百万を稼ぐことも可能だ。地道な生活など馬鹿馬鹿しくなってくる。  一日二日と大学を休むようになると徐々に一月単位で欠席するようになり、遥希は大学をやめてホストの道で生きていくことに決めた。  代表に拾われたときに借りた金はすでに返し終え、今は将来ホストの引退に備えできるかぎり貯蓄しておこうと稼ぐ日々だ。  他店よりひき抜きの声がかかったりもするが、代表の許で働くかぎり義理を貫こうと誠実さを忘れない遥希。いづれ独立して自分の店を持つのもいい。そのときは最高の花道を飾り、フリューゲルを去るつもりだ。  客の待つテーブルに着くなり、遥希は「今夜も綺麗だ蓮花。来てくれて嬉しいよ」と蜜言をささやく。黒服がトレーを片手に戻ってくると、ウーロン茶を置き「どうぞごゆっくり」と残し去っていった。

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