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第15話

 後ろ手にドアを閉めると、龍哉は遥希の背後を取り腕にとじ込めた。耳もとで話す。 「なあ遥希。これからおまえン家いっていい?」 「ダメ──って言っても押しかけてくるつもでしょう」 「へへっ。わかってるじゃん」 「さすが遥希。俺のこと理解してるのはおまえだけだぜ」と調子づく龍哉。  背中から抱きつく大型犬のような男に頬をすりよせられ、はあと大きなため息をつくと遥希は「ですが帰ってもセックスはなしですよ」「俺は眠いですから」と牽制をしておく。  それには龍哉が「オッケ、オッケ。わあーってるって」と満面の笑みで承諾。けれど遥希は心のなかで「とか言ってベッドに入ったらなし崩してくるんだろ」と予言する。  諦めの境地で心のまぶたを閉じると、ふっつき虫のような龍哉を引きずり遥希は更衣室を後にするのだった。  店を一歩出ると網膜を刺す朝日が出迎える。  ふだんであれば営業が終わると新入りホストたちの腹を満たすため、遥希や龍哉など先輩ホストは自腹を切って二十四時間営業の焼き肉店やファーストフード店に連れていく。  あらかじめ今日は中堅ホストの純平に軍資金を手渡しており、今頃彼らはどこかで若い胃袋を満たしていることだろう。  彼らと別行動で店を出るとき、遥希はひとりで帰途につくか龍哉に懐かれマンションかホテルにいくかの二択。だが龍哉は色恋営業で今の地位を得たホスト、彼に惚れ依存する女性は多く出待ちで捕まることも。  そんなときは素気無くつき離して遥希の後を追うか、軽く遊んでやるかとホテルに連れ込むかその日の気分で抱く相手を決めている。  すでに今日は二番手彼女からの誘いを断わっていた。そのうえで遥希が事務室から辞してくるのを待ち構え、こうしてベッドの相手を確保したというわけだった。

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