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【BLホラー】少年κ その2
昔から苦手だった。
ベッドの下。
壁の割れ目。
ラックの下。
そして、押入れのわずかに開いた隙間。
世の中には、色々な恐怖症がある。
高い所が怖い、高所恐怖症。
閉ざされた空間が怖い、閉所恐怖症。
だったら、自分のは隙間が怖い、隙間恐怖症だ。
15cmぐらいまでの隙間。
隙間の先が、真っ暗で見えないのなんて、もっとも恐ろしい。
いつから怖いのだろう?
よく覚えていない。
赤ちゃんの時から、怯えて泣いていたわ。
もう、怖くないでしょ?
母は、笑いながら言う。
大人になった、今でも怖いなんて、とても言えない。
なんて事を、お洒落なカフェでコーヒーを飲みながら考えていた。
というのも、店員に案内されたのが店の奥のソファーの席だったからだ。
ソファーの下の隙間が怖い。
背筋を冷たいものが伝う。
あっちの窓際の席に、移ってもいいですか?
そう、言いたいのに言えずに、身動きできずに座っている。
だって、ソファーの下から伸びた手が、足首を掴んで離さないから。
隙間が怖いんじゃない。
隙間から伸びる手が、隙間の向こうから自分を見つめる目が、
どうしようもないほど、怖い。
「うっっ」
呻き声が自分の口から洩れる。
足に力を入れる。
引っ張られている。
ソファーの下からニョキリと突きでた手が、すごい力で足首を引っ張っている。
渾身の力を込めて踏ん張っているのに、じりじりとスニーカーが後ろに下がる。
――もう、駄目だ……
観念しかけた、その時。
「みーつけた!」
陽気な声とともに、背後から、肩を叩かれた。
途端に、金縛りから解けるように、足首を掴んでいた手は跡形もなく消え去った。
安堵に、渚が後ろを振り返ると学ランを着た中学生くらいの少年が立っていた。
それが、彼、少年κとの出会いだった。
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