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【BLホラー】少年κ その5

 渚は、バス停のベンチに腰を掛けた。  時刻表を見ると、あと1時間もある。  7年ぶりのこの村は、あまりにも変わらない。  村には、タクシーはない。  この村では、知り合いの車が、タクシーの代わりだ。  誰にも送迎を頼むつもりのなかった渚は、ただひたすらバスを待ち続けた。  真っ先に、剛志のところに行くつもりだった。  ――あいつに、思いっきり文句を言ってやる。今までの事も全て    プップッー  クラクションの音が響いた。  見上げると、白い車から手を振る人がいる。剛志の祖父だった。 「渚くん、この車に乗って行きなさい。バスが来る前に熱中症になってしまうよ」 「どうして?」 「渚くんが来るのはわかっていた。だから、迎えに来たのだよ」  ニコリと笑う顔を正面から見ることが出来ず、渚は俯いた。  剛志のことは、虫唾が走るほど嫌いだったけど、この人は嫌いではない。 「あの、剛志のところに連れて行って下さい。あいつと話があるから」  目をあわせずに、早口で頼む。  対峙するつもりで来たが、いざとなると剛志が怖い。  繰り返し植えつけられた恐怖に抗うことは簡単ではない。あの行為を強制されたら、また従ってしまうかもしれない。  ――ダメだ。剛志を一発殴って、ちゃんと今までの事を謝らせるんだ。そうじゃないと囚われたままになる 「じゃあ、剛志のところに行くかね。そのあと、うちに泊まりなさい。君に話をしないといけないことがあるんだ。本当は、もっと早くに話せば良かったのだけど、あれが望まなくて」  渚が助手席に乗り込むと、車は発進した。 「あれ? 山に向かう道? 剛志は山にいるの?」 「そう。あれは、ずっと山にいる」  山で修行でもしているのだろうか。  あいつは、確か、神社の10代目を継ぐことになっていた。10代目というのは、とても特別な存在だと聞いたことがある。  登山道ではなく、獣道を歩いていく。  30分ほど、歩くと急に視界が開けた。  そこは、墓地だった。  ――どうして、こんなところに? 剛志は?  1つの墓石に近づいた。  そこには剛志の名前が刻まれていた。    日付は、7年前。  ちょうど、渚がこの村を出た日。剛志の誕生日の前日だった。   「どうして……」 「あれが生まれた時から、お告げでわかっていた。15歳までは生きられないことは。本人も知っていたから覚悟はしていたはず」  言いたいことが、いっぱいあった。  全てを吐き出して、謝罪してもらうはずだった。 「だから、あれのために、泣くことはない」 「え?」  言われて、自分が泣いていることに気づいた。  大嫌いで、憎しみしかなかった。まさか、自分が涙を流すとは考えもしなかった。 「葛葉夢人……知ってるでしょ? どうして、昨日、あいつの家に行ったの?」 「いずれ、わかる」 「今、教えてっ! さっき、話があるって言ったじゃないかっ!」 「そのつもりだったが、まだ、時期ではなかった。ちゃんと、本人から直接聞きなさい」  結局、剛志の家には寄らずに、そのまま戻ることにした。  胸がモヤモヤする。  すっきりとして、帰る予定だったのに。  昨日、本人に問いただすことも出来た。  あいつに会わずに、こんな離れた村まで来たのは、怖かったからだ。  あいつと過ごした日々のすべてが演技で、嘘っぱちだったと認めたくなかった。  あいつを失うのが怖かった。  ――全てを聞き出す……どんなつらい事実でも、ちゃんと向き合う  渚は、決意を胸に、少年κ……夢人の家へ向かった。

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