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【BLホラー】夢 その3

 その晩も渚は夢の中にいた。  右手は、筋ばった大きな西村の左の手のひらで包まれている。  ここは、どこだろう?  暗闇だけど、悪くはない。むしろ、ワクワクする感じ。  手をひかれるまま歩き続けると、向うの方から色とりどりの光と陽気な音楽が聞こえてきた。  突如現れた、夜の遊園地。  西村は、渚の手をぎゅっと握りしめると、メリーゴーランドに向かって歩き出した。  二人乗りの馬の背の前側に座るように導かれる。  渚がまたがると、その後ろにぺったりと引っ付くように西村が腰を下ろした。  軽快な音楽が鳴り響き、二人の乗ったセルロイドの馬は上下にゆっくりと動きながら、馬車や、他の馬と共に回転を始めた。  西村の手が、渚の腰に回され抱きしめられる形になる。  その腕を振りほどくことなく、二人は無言のまま、何周も回転を続けた。  西村の悪夢は、すっかり様変わりした。  一人の時は、何者かに追いかけられ命を狙われる悲惨なものが、二人が一緒になると禍々しさはすっかり潜め、普通の夢になる。  とはいえ、夢の中で二人が出会うまでの時間は、相変わらず命がけで悲惨だったのだけど、それも試行錯誤の内、手をつなぎながら眠りにつくと、二人同時に夢の世界にいくことがわかった。  それからは、手をつなぎながら眠りにつくのが日課となっている。  ドロドロと禍々しい夢だったのが、青空の河原や、草原、博物館など、様々なシチュエーションではあるものの心落ち着く、安らかなものへと変化した。    ――まるでデートみたい  そう、まさしく、夜な夜な二人は夢の中でデートをしていた。  悪夢から身を守るための行為だったはずが、恋人同士のような甘いものに変化している。  西村の親指が渚の手の甲をまさぐった。  夢の中でも、手はずっと握りしめられたまま。  いつの頃からか、西村からのスキンシップに性的な香りが漂い始めた。  そして、それを感じつつも、渚も拒否できない。  現実世界では、全くそんなそぶりもみせず、夢の世界だけの行為。    夢の中でも、浮気になるのだろうか?  夢人のことが大好きなはずなのに。    もし、西村に体を求められたら、きっと拒否できないだろう。  その日は、遠くはない気がしていた。 「渚?」  目覚めると、いつも夢人が覗き込んでいる。  夢の中で、何が起こったかを知りたいけど知りたくない、そんな葛藤がにじみ出た目。  申し訳ない気持ちと後ろめたさを帳消しにするように、ぎゅっと夢人を抱きしめた。  渚より大きいが、急激に成長したせいでどこかアンバランスな体。  すっかり出来上がった大人の体の西村とは違う。    現実世界に戻ってくると、自分には夢人だけだと確かに思える。  なのに、夢の中では、その気持ちが輪郭をなくし、ぼんやりとしたものに変化してしまう。 「渚? もう、夢の世界に行くのはやめたら?」 「それは、できないよ」 「僕も、一緒に夢の世界に行けたらいいのに……」  夢人がポツリと呟く。  いつまでも、こうしている訳にはいかないことはわかっている。  何とか原因を探り、根本的に解決しないといけない。  でも、その足がかりが見つからない。  不浄のものではないから、祓えない。  西村も起きてきて、三人で家政婦さんが用意した朝食をとる。  もう、1ヶ月になるのに西村の家で両親の姿を見たことがない。 「西村さん、ご両親は長期出張なの?」 「あの人たち、それぞれ、別宅があるから」 「え? あ、立ち入ったことを聞いてしまってすみません」 「気にしないでいいよ。ずっと昔からこんな状態だから。あいつは病気なんだよ。俺の母親と婚約している時から浮気していたらしいから。今の母親は、俺の母親が死んだ後にあいつの嫁になったんだけど、やっぱり浮気はやめられないみたい。あいつなんか、死ねばいいのに」  いつも朗らかで太陽のような西村からは想像もできないような憎悪の感情に、かける言葉がみつからない。  この広い家で、西村はずっと一人で過ごしてきたのだろうか。それは、寂しすぎる。 「空気読まなくて申し訳ないけど、そろそろ渚を返してもらっていい? ここから高校に通うの、遠いし大変なんだ。十分、休憩出来たでしょ? また、どうしても耐えられなくなったら渚を貸してあげるから。もちろん、僕も一緒だけど」 「夢人っ!」 「わかった。でも、心の準備が必要だし、今晩だけは一緒に寝てもらってもいい? 明日からは、もう自由にしてもらっていいから。渚、夢人君、今まで付き合ってもらってありがとう」 「西村さん……」 「今日、朝一でデータを採取するから、先に研究室に行くね」  渚の言葉を遮るように、片手をあげると、そのまま洗面所に消えた。  本当に大丈夫なのだろうか?   あの恐怖の中に一人残すことを考えると、心配で仕方がない。  夢人を見ると、まさか西村があっけなく了承するとは思っていなかったみたいで、キツネにつままれたような間抜けな顔をしていた。  不覚にもきゅんと胸に来た。可愛すぎる。  やっぱり、夢人のことが大好きだと思いながら、その顔を渚は見続けた。      ◇ ◆ ◇  夢の中で、宮殿の様な建物の中にいた。  ゴールドの金具で縁取られたやたらとゴージャスな調度品が廊下の至る所に飾られている。  西村の手にひかれながら、渚は歩いていた。  西村は、つきあたりの部屋の前で立ち止まると、その重厚なドアを開いた。  その部屋は、30畳ほどありそうな大広間で、中央には天蓋つきのキングサイズのベッドが備え付けられていた。  バルコニー面したところは、丸いジェットバスが置かれていて夜景を見ながら入れるようになっている。  そこにベッドがあるのを知っていたかのように慣れた足取りで近づくと、西村は渚を押し倒した。 「に、西村さん……?」  渚の上にのしかかると、顔を近づけた。  上気した顔が、まるで知らない人のように見える。  あっと思った時には、ぬるっとしたものが口腔を蠢いた。  それは、歯列を割り入り、上顎の裏を擦りあげる。 「……っん……」  甘い声が自分の口から漏れ出た。  気持ちいがいい。こんなところにも、性感帯があったんだ。  疼きが沸き起こり、下半身に溜まっていく。  ダメだ、ちゃんと拒否しなくちゃ……と思うのに、悦楽の渦に取り込まれて身動きできない。  このまま流されてしまったら、どうなるのだろう?  西村の体が離れた。  唾液でぬれた唇を舌で舐めとると、情欲にまみれた眼差しを向けた。  獲物を狙う肉食獣の目つき。  知らなかった。この人は、こんな顔でセックスをするんだ。  渚の短パンを下着ごと引き抜くと、足の間に体を割り込ませた。  足を閉じることもできず、性器をむき出しにしたあられもない姿を西村に晒してしまう。  さっきの淫らなキスで、すっかり立ち上がり先走りの液で濡れているのが自分でもわかる。  羞恥のあまり、腕で顔を隠す。 「渚も、その気になってるじゃん」  こんなことをされているのに、その体を押しのけることも拒否する言葉さえ口にすることは出来ない。 「ずっと、渚を女の子みたいに抱きたいって思ってた」  そう言って自分の中指と人差し指を渚の口の中に突き入れた。  ぐっと、喉奥までいれられたそれで、思わず吐きそうになる。  西村はフェラチオを連想させるような卑猥な動作で抜き差しし、散々、渚の口の中をいたぶった後、唾液にまみれた指で窄まりを円を描くように撫でた。  中に入るギリギリのところを強弱つけて、まるで揉み込むように撫で上げる動きに、ヒクヒクと窄まりは痙攣を始めた。  渚のペニスは真っ赤に充血して、腹につくほどそり上がり、タラタラと液が流れ出ている。  ――入れて欲しい。中をぐちゅぐちゅにかき回して欲しい  思わず懇願しそうになり、渚は必死で奥歯を噛みしめた。 「渚、欲しい?」  否定の言葉がないのが肯定ととらえたのだろう、西村の指が体の中に入ってきた。  的確に前立腺を捉え、そのしこりを爪でひっかくようにはじいた。  散々焦らされ、限界まで昂っていた体は、あっけなく崩壊した。 「ああっ、いくっ」  頭が真っ白になって、全身がプルプル震える。  今まで感じたことのない、すさまじい絶頂だった。  こんなオーガズム、感じたことない。  もう、訳が分からない。 「んっ、渚、すごい締め上げ。そんなに気持ちが良かった?」  西村は口の端を歪めて、意地悪い微笑みを浮かべると言葉を続けた。 「でも、これで終わりじゃないよ。もっと気持ちよくしてあげる」  そういうと、指を引き抜いたそこに塊を押し付けてきた。  西村のペニスだ。その凶悪な大きさと質量に、期待で体が震える。 「ああっ」  夢人とは違う、大人の成熟した体。  そして、性を知り尽くし、磨きぬかれたテクニック。  渚は、いつしか目くるめく与えられる悦楽に翻弄され、思考を手放してしまっていた。    夢人が唇を噛みしめながら、渚の寝顔をじっと見つめていたとは、知る由もなかったのだった。

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