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【BLホラー】夢 その4
渚が目覚めると、夢人の姿はなかった。
「ああっ」
思わず、頭を抱える。
とうとう、やってしまった。
夢の世界で、西村と最後の一線を越えてしまった。
――これって、絶対に浮気だ
自分で自分が信じられない。
大好きなのは夢人のはずなのに、どうして夢の中では西村を拒否できないのだろう。
「おはよう、渚」
見上げると、夢人がいた。いつの間に、部屋に戻ってきたのだろう?
「おはよう、夢人。帰り支度しようか」
夢人の顔をまともに見ることができない。
大変なことをしてしまった。消えてしまいたい。
二人は今日から、渚のマンションに戻ることになっていた。
無言で荷物をまとめていると、西村が起きてきた。
「二人とも、今までありがとう。車で送っていくよ」
にこやかな笑顔で、夢人と渚に話しかける。
いつもと全く同じ態度。
昨日の行為を微塵も感じさせない西村の態度に、面喰う。
急に態度を変えられても困るが、あまりにもあっさりし過ぎている。
意識してしまって、普通に出来ないのは渚だけ。
よくわからない感情が胸を渦巻く。
――西村さんとは何もなかった。もう、忘れよう
渚は決心すると、こぶしをぐっと握りしめた。
◇ ◆ ◇
マンションに着くと、夢人が顔を寄せてきた。
キスされる、そう思った途端、顔を逸らしてしまっていた。
無意識の動作だった。
夢人が嫌だったわけじゃない。
西村に散々、暴かれた体で、夢人に触れるのが戸惑われたからだった。
夢人は、一瞬、ひどく傷ついた顔をした後、すぐに笑顔を作って「まずは、この部屋の片づけをしなくちゃ」と明るい声で言った。
「夕飯の買い出しもしないとね」
「久しぶりの二人の生活だね。今日は一緒に作ろうか?」
それまでも泊まりに来ることは多かったが、夢人の高校進学を機に、一緒に暮らしていた。
家事は分担制だった。
今までと同じような会話をし、同じように過ごす。
でも、表面だけ。同じではない。
二人の間に流れるギクシャクした空気に気付かない振りをしながら、必死に今までの自分たちを演じていた。
こうして過ごしているうちに、いつか自然に接することが出来るかもしれない。
夜になった。
渚が風呂からあがると、夢人は背を向けて眠っていた。
「夢人?」
何となく、本当は起きているような気がして、小さな声で呼びかけてみる。
返事はない。
疲れて眠ってしまったのだろうか。
いずれにせよ、助かった。
夢人とセックスをする気にはなれなかったから。
夢人に背を向けて、渚は眠りについた。
右手が寂しい。
西村と手をつないで寝るのがいつの間にか習慣になっていた。
西村は今夜、どんな気持ちでいるのだろうか?
渚は、隣りにいる夢人がどんな気持ちでいるのか気遣うことも出来ず、ただ、西村と自分との関係について考え続けていた。
◇ ◆ ◇
真っ暗な闇の中にいた。
あ、また、あの夢だ。
西村と一緒じゃないのに、なぜ、この夢の中にいるのだろう?
足裏に、ぬるりとした泥の塊を感じる。
「西村さん?」
大声で、呼びかける。
あの禍々しい存在に見つかる前に、早く西村に出会わなければ。
「うわっ」
突然、首を絞められる。
泥の中に、体が沈む。
あっけなく、見つかってしまったようだ。
苦しい。
息が出来ない。
体中の細胞が酸素を求め、暴れる。
首を締め上げる力は、緩む気配はない。
頭がガンガンする。
――もう、ダメだ
半分意識が遠のいたとき、空気が変わった。
禍々しいものの気配が無くなり、いつもの甘やかな雰囲気になっている。
「渚、見つけた」
「西村さん……どうして?」
「俺たち繋がったから。渚の体がどこに行っても繋がったままなんだよ」
「え?」
西村がゆっくりと渚の顎を持ち上げ、頤(おとがい)に吸い付いた。
甘噛みしながら、吸引するその動きに、ビクリと体が反応してしまう。
昨日与えられた快楽を体はしっかり覚えていて、少しの刺激ですぐに高まる。
流されたらダメだ。ちゃんと言わなくては。
夢人をこれ以上、裏切ることはできない。
「西村さん。俺、夢人と付き合ってる。あいつを裏切りたくないから、西村さんとは寝ない」
「そんなこと、最初っから知ってるよ。ねぇ? ここは俺の夢の世界だよ。それって、どういうことかわかる? ここでは、全て、俺の思い通りになるんだよ。誰も、逆らえない」
次の瞬間、渚は全裸でベッドの上にいた。
両腕は頭上で縛り上げられ、足もM字に開脚されたまま固定されている。
西村は、目を細めて渚の内腿に舌を這わせた。
「やっぱり、色が白いし、こんな格好が似合う。縛ってみたいって思っていたんだ」
西村が右手をあげると、全長30cmの小さな白い蛇が現れた。
それが、にょろにょろとシーツの上を蠢きながら、近づいてくる。
「うわぁ、助けて。西村さんっ、蛇をどけてっ」
蛇は、西村が唾液で濡らした内腿を這い進む。
冷たくてぬるっと湿った触感に、全身が粟立つ。
「西村さんっ、西村さんっ!」
西村は、渚の必死の懇願にも顔色を変えず、妖しい微笑みを浮かべたままだ。
とうとう蛇は、股の間にたどり着き、窄まりに頭を押し付けた。
蛇の口のチロチロとした赤い舌が目に焼き付いて離れない。
「…っ…んっ……」
もはや、声にならなかった。
蛇の頭が、窄まりから体内に押し入ってきた。
ぬるりとした冷たい感触が粘膜を這い進む。
ペニスとは違う、でも、無機質な大人のおもちゃとも違う、意思を持つ生物の感触。
「ああっ!」
渚の感じる所を、蛇の肌が擦りあげた。
吐き気がするほどおぞましいのに、気が遠くなるほど気持ちがいい。
冷たい感触は、誰にも開かれたことのない最奥の場所をゆっくりと這い進む。
「俺からのプレゼント気に入ってくれたみたいだね。蛇だけで、こんな風になっちゃって」
くすりと、西村が笑みを浮かべる。
「抜いてほしいなら、抜いてあげるけど、本当にいいの?」
西村が、尻尾を軽く引っ張った。
蛇はそれに逆らうように激しく体をうねらせながら、さらに奥まで粘膜を進む。
気持ちがいい。もっと、奥まで来てほしい。
「あっ、いくっっ」
渚は、大量の白濁を吐き出していた。
西村は、その白濁液を指で掬い取ると、渚の口の中に押し込んだ。
苦い、ドロリとした不快な感触に顔を顰めてしまう。
その反応を楽しげに観察していた西村は、蛇を引き抜くと、一気に自分のペニスを突き入れた。
「あぁっ」
そのまま、激しく腰を使い始めた。
オーガズムの最中の体に、その刺激は強すぎた。
渚のペニスは半立ちのまま、タラタラとだらしなく液を垂れ流している。
気持ち良すぎて、壊れてしまったのかもしれない。
「渚の中、絡みつくみたい。最高に気持ちいい。明日は尿道を責めてみようか? ここに何を突っ込むのがいいかな? ミミズ?」
子供みたいな笑顔で言った後、ぞっとするような冷たい声で囁いた。
「どこに逃げても無駄だよ。渚は、夜になればこの世界に戻ってくるしかないんだよ」
◇ ◆ ◇
宣言通り、渚の体は夜ごと西村に蹂躙された。
最初の頃の恋人同士の様な甘いものではなく、サディスティックなものに変化していった。
西村は、凌辱の限りを尽くし、変態なプレイを強要してくる。
渚は、一晩中、苦痛と恐怖で泣き叫ばされ、認めたくないが、それを上回る快楽で啼かされた。
夢の中の時間軸は現実とは異なっているようで、時には数日に渡って責められることもあった。
頭がおかしくなりそうだった。
しかし、どんなひどいことも、夢の中では拒否することが出来ず、西村の言いなりだった。
そんな状態では、夢人との生活を続けることはできず、マンションに帰らず研究室に泊まり込んでいた。
研究室で顔を合わす西村は全く普通で、夢での行為のそぶりを少しも感じさせない。
――夢人、どうしているんだろう?
もう、ずいぶんと夢人と顔を合わせていない。
夢人のことが大好きなのに、顔を見ることすらできない。
穢れて、すっかり淫乱な体になってしまった自分を見られたくない。
どうして、こんなことになってしまったのだろう?
隙間から伸びた手に、足首を掴まれる。
夢人と距離を置くようになってから、不浄のものに狙われるようになった。
庇護が消えかかっているのだろう。
――ちゃんと、夢人にお別れを言おう。こんな自分は相応しくない
本当は夢人と別れたくない。
夢人の事を愛している。でも……
渚は、滲んだ涙を必死にこらえると、西の空に沈む夕日を見つめた。
――もうすぐ、夜がやってくる
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